「泣かないで、青葉が泣くと私も悲しいよ」
涙を唇で拭って青葉の顔にキスの雨を降らせる。
「私も青葉が好き。大好き。青葉だけを愛してる……」
湧き上がる愛おしさに、その苦しいほどの愛おしさに、私の目からも熱い涙がこぼれる。
「私達、約束したじゃない。ずっと一緒だって。ずっとお互いだけを愛するって……」
それは遠い日の約束。
小さな頃の、でも、厳かな誓い。
私だけがその誓いに縛られていると思っていた。
だから私から青葉が離れていくんじゃないかといつも恐れていた。
「それじゃあ、私を恋人にしてくれる? 若ちゃんは琴子ちゃんと付き合ってるんじゃないの?」
「えええっ!」
や、確かに、付き合ってるというか。
「違う、違うのよ!」
「だって……」
驚愕に固まっている私の身体の下から抜け出して、青葉は携帯のメール画面を開いて私に見せた。
「ぎゃぁぁぁっ!!」
私はベッドの上で文字通り飛び上がった。
だって、その、あの。
「ていうか、誰がこれ!」
「これと同じメール、5人から送られてきたの……」
それは、あれだ。
私は頭を抱えて髪の毛を掻き毟った。
一体あれは何人に目撃されてたんだろう。
青葉の携帯には私と琴子のキスシーンがばっちり送られてきていた。
「皆の文面からすると、多分、相当な人数に写メで撮られてたみたいよ」
「うっそー!!」
もう、月曜からガッコ行けないよ、私!
「若ちゃん」
うずくまるようにしていた私を赤く腫れた目で覗き込むと、震える声で青葉が問う。
「これ、どういう事なの。琴子ちゃんが好きなの? 琴子ちゃんと付き合っているの??」
涙で潤んだ瞳がまた水を湛えはじめる。
私は勢い良く顔を上げると首をぶんぶんと振って全身で否定した。
「琴子と付き合っていないし、琴子の事なんかこれっぽっちも好きじゃない!
私が好きなのは青葉だけ。ずっと昔から青葉だけ。この先もずっと青葉だけだよ!!」
「ホントに?」
私は今度は首を縦にぶんぶん振った。
「じゃあ、これはどうして?
若ちゃんは好きでもないのにキスをするの?
私、若ちゃんが琴子ちゃんを好きなんだと思って、すごくショックだった。
私達ずっと一緒で、ずっと一生お互いを愛しているんだと信じてたから……」
「青葉!!」
青葉の震える声が愛おしくて、私は思わずぎゅうぎゅうと青葉を抱きしめた。
「ごめん、本当にごめん。青葉を傷つけて。
私が馬鹿だった……」
私はすべての事の顛末をポツリポツリと青葉に話した。
「本当、馬鹿ね。私が若ちゃん以外の人を好きになるわけ無いのに。
でも、誤解で良かった。心が痛くて、辛くて、死んでしまいそうだったの」
ホッとしたような青葉の顔に、私もちょっとだけホッとした。
「じゃあ、皆んなには罰ゲームだったって返信しておくわ」
「罰ゲームだとしたら、ちょっと笑えない罰ゲームだけど、女子高だからまあ、有りかな?」
青葉の提案に私はますますホッとした。
よくよく考えてみたら琴子のファンに呪い殺されちゃいそうな事をしてたかも。
今更気付いて、たちまち全身の血の気が引いた。
そんな私を青葉が慰めるようにそっと抱きしめてくれて、今度は私にキスの雨を落としてくれた。その慰めるようなやわらかな唇の感触にうっとりしていると、
「もう、私以外とは絶対にキスしないで」
耳元で優しく囁いて耳の後ろにもキスをされた。
「愛してるの。だから私達本当の恋人になりましょう……」
「あおば……」
喘ぐように愛しい名前を呼ぶと、私の言葉は青葉の唇に吸い込まれた。
青葉の舌が私の中に入ってくる。私はそれに応えるように自分の舌を絡めた。頭の奥がじんじんと痺れて、たまらなく気持ちが良くなる。
幾度も幾度も深くキスしながら、お互いの服を脱がせていった。
そして私達はどちらともなくそのままベッドに倒れこむ。
「愛してる。ずっと、ずっと……」
もう、布一枚でさえ、私達を別つものはない。
END