はじまりはおわり
私と咲也は私が転校して来た小学校の5年生から中学・高校とずっと仲が良かった。引っ越して来てはじめて出来た友達と親友になれるなんてなんてラッキーなんだとずっとずっと思っていた。
8年間一緒に過ごして相手の好みや考え方は判りすぎるぐらい判って、まるで一つの心をもって生まれてきたかのように感じる事がしばしばあった。
休日も平日もなく、ずっとずっと一緒にいた。
時々どちらかが病気で休むともう片方も元気が無くなって病気になってしまうくらい不思議と一心同体だった。
そんな私達だったけれども、とくに特別な何かを話したりしたことは無かった。
私達の話すことはとても無邪気な他愛の無い事。
昨日のテレビの話やお互いの好きなアイドルや憧れの先輩、それからお互いの好きな人の話や家族の話。
まるで恋人同士みたいだと両親や友達から揶揄されて呆れられて。それでも私達二人はそんな言葉は耳に入っていないかのように離れる事はなかった。
ひどく濃密で親密な、まるで夢の中に住んでいるみたいだった。
けれどもその夢のような世界は高校を卒業した途端、あっけなく覚めてしまった。
私は地元の女子短大に進学し咲也は家から少し遠い四年制の国立大学に進学した。
そのため咲也は独り暮らしを始め、私と咲也の生活はまったく重なる事が無くなった。
私は半身がもぎ取られたように寂しかった。
まるで水中で生活するように何もかもが緩慢で自分と他者の間に水の層があるようにすべてがひどく遠く、息苦しく感じる。
何もかもが苦痛で、無理遣りに違う場所に押し込められたかのように居心地が悪く、いつも居場所が無いように感じていた。
だんだんと花が萎れるように元気の無くなっていった私を親や友達は5月病だと笑った。
けれど。きっと違う。
咲也も今の私のように苦しんでいる。
まるで半身をもぎ取られたように感じて嘆いているに違いない。
そう考えただけで呼吸が苦しくなり、いてもたってもいられずに助けを求めるように、縋りつくように、喘ぐように電話をした。
メールをした。
けれども電話は繋がらず、メールの返信は無い。
私は気が遠くなるほどの恐怖を感じて取る物も取らず、慌てて電車に飛び乗って咲也の住む街を訪れた。
悲しみ嘆いている咲也を抱き締めて元気付けてあげよう。
遠く離れていても私達は親友でいつも大切に思っているからと告げよう。
駅の改札を抜けると右も左もわからない都会に、私は咲也の住む学生マンションの住所が書かれたメモを握り締めていた手にはじめて気付いて駅前の地図と住所を照らし合わせた。
ふと、すべての音が掻き消えて、あらゆるものが色彩を失った。
私の目が吸い寄せられた先にはまるで奇跡のように咲也がいた。
そして私は初めて咲也がとても綺麗だと言う事に気がついた。柔らかな春らしい色の服をまとい、輝くような笑顔を浮かべている。時々強く吹く風にひらひらと上着やスカートが翻り、まるで風に揺れる花びらのようだ。
綺麗に化粧をして別人のような咲也。
その咲也の隣には優しそうな男性がいた。
咲也は明るい笑顔でとても楽しそうにしていてびっくりするぐらい綺麗になっていた。もしかしたらもともと綺麗だったのかもしれないけれど。
私はすべてを理解した。
一瞬にして何もかもあらゆるすべてが判った。そしてわかった瞬間、すべてが終わった。
それは私の初恋が終わりを告げた瞬間だった。
07年8月1日〜08年1月6日までのブログの拍手SSでした。