佐野さんを初めて見かけたのは入学式が終わった 3日後のことだった。 まだ何処の部活に入ろうか決めていなかった私は早めの電車で登校していた。 そんな時、同じ電車の中で友達と楽しくお喋りしている彼女を見かけた私。 クラスに居る時とは違って楽しそうに微笑む彼女を見て胸がドキドキしてしまった。 彼女の笑顔を見た私は、彼女のことを好きになったのを自覚した。 でも、今は彼女に告げる事は出来ない。告げて嫌われるのが怖いから。 自分の胸の中にこの気持ちを閉じ込めておこう。 実は、凛は習い事として『合気道』を週 3 回習っている為に学校の部活は控えめにしていたのだった。 物騒な世の中、自分の身は自分で守れと子供の頃からの父の教えを忠実に守っていたりする。 何故突然部活に入ったかというと人が足りないから名前だけ貸してくれれば夕方の部活動に出なくていいと親友の久美子に頼まれた凛は、1 週間後 ESS 部に入ることにした。 部活に出ると周りの友達に云ったので佐野さんとは同じ電車に乗らなくなった凛。 季節は巡り冬の寒さが身体に沁みる 11 月の事だった。 彼女との電車での出逢いは最悪だった。 満員電車の中、私に抱きしめられた彼女と思わず後ろから抱きしめてしまった私。 乗客の誰もが自分を「男」と認識した所為なのは一目瞭然。 こんな容姿の所為で「男」に間違われるのは毎度の事だけど、 今回ほど自分の見た目を呪いたくなったことはない。 片想いの彼女に見間違われたのだから、相当ショックだった。 私、日下凛は、佐野友佳さんの事が好きなだけなのに……
それは寒くなりかけていた 11 月の冬の日、私が寝坊した為に起こった出来事だった。 いつも乗る電車よりも 1 本遅れたことによりすし詰めの満員電車に乗った。 ウチの学校、私立如月学園 ( 女子校 ) の服装は、私服と学校指定の制服と選べるのだ。 だから たまたまその日私は私服で登校したのだ。 カーキ色のミリタリージャンパー、中はグレーのタートルネックに迷彩色のカーゴパンツ、 キャップを被り 170 cm の身長とくれば何処からみても男の子のようだ。 そんなギュウギュウ詰めの電車に佐野友佳がいつものように乗り合わせた。 彼女は学校指定の、グレーの制服にダッフルコートを着用していてカバンを胸の辺りに抱えていた。 凛に比べると背の低い友佳も 158 cm と今時の高校生の平均的な身長で 凛とは正反対の可愛らしい雰囲気を纏う女の子だ。 その時、電車が大きく揺れて背中ごしに誰かに抱きしめられていると感じた友佳は、 またいつもの痴漢が乗っているんだと顔をしかめたのだった。 実は、凛が背中ごしに抱きしめてたのだが痴漢慣れしている友佳はそう取らなかったのだ。 いつも泣き寝入りしている友佳だが今日は勇気を振り絞って声を出したのだ。 「止めてください、これ以上触るのならもっと大きな声を上げますよ」と。 いつも教室で蚊の鳴くような小さな声の友佳が珍しく大きな声を出したので私は驚いていた。 凛の、その一瞬の迷いが友佳の次なる告発を引き出してしまった。 丁度自分達が降りる駅に着いた時に……友佳の声が車内に響き渡った。 「この人痴漢です、誰か」ふいに友佳が私の右腕を掴んだ。 友佳は私の腕を引っ張って車両から引き摺り下ろした後で、ようやく私がクラスメートだと気がついた。 気まずくなって急いでその場から離れる 2 人。 「あっ、日下さんどうして此処に」彼女の呟く声が聞こえてきた。 痴漢だと思って引き摺り降ろした相手は、同じ 1 年 2 組の日下凛さんだった。 痴漢行為をしていた訳ではなく、たまたま車体が揺れて掴む所がなく 友佳を抱きしめてしまったと日下さんは説明をしてくれた。 勘違いのあげく、日下さんに不快な想いをさせてしまったのだ。私は慌てて日下さんに謝った。 「大丈夫、気にしてないし。いつも男の人に間違われるの慣れている」と頭を掻いて照れ笑いする凛。 そのまま 2 人は改札を抜け並んで学校までの道のりを歩いている。 ふと凛が佐野さんにこう問いかけた。 「ねぇ佐野さん、私を痴漢と間違えたということはいつも電車で痴漢に遭っているの ? 」 「えぇ。いつも遭っているの。何故か狙われやすいみたいで」 「それならお詫びも兼ねて明日から私が同じ車両に乗り込んで佐野さんのこと痴漢からガードするよ」 「あなたの事が好きだから私が守る」凛の小声で囁いたのは友佳は聞こえなかったようだ。 「日下さんがそばに居てくれるなら安心ね。どうもありがとう」 話をしていたら学校に着いていた。友佳が 1 人で学校に来てもこんなに早く着かないのに。 2 人が 1 年 2 組の教室に着いた時、凛の悪友の 1 人阿部久美子が凛を冷やかしに来たのだった。 「凛が誰かと一緒に登校するなんて珍しい。しかも佐野さんとなんて。 どういう風の吹き回し〜珍しい事もあるもんだ」す、するどい久美子。どう乗り切ろうか悩む凛。 さすがに今朝あった事は云えないと判断した凛は…… 「寝坊して乗った車両にたまたま佐野さんが居たんだよ」と答えた。 友佳も真実は告げられなかったから凛がそういう風に答えてくれほっとしていた。 天の恵みか 3 人のやり取りを聞いていた凛の悪友その 2 の高瀬深雪が話しに入り込んで来た。 「おやっ、お 2 人さんおはよう。もしかして同伴出勤 かな ? ! 」同伴出勤ってホストじゃないし。 佐野さんは顔真っ赤にして俯いちゃうし。思わず深雪をジト目で睨んだ。 「深雪、佐野さん困らせてどうすんの」久美子も雑じって非難の声。 「そうだぞ深雪、佐野さんに」と小声の凛。 そんな時担任が教室に入って来るのが見えたのでいそいそと皆席に着いた。 「HR 始めるぞ〜 席着け」 担任の渡邉先生が教室に入って来た。 先生が生徒の出席を取り始めた。いつもの喧騒が返ってきているのに凛には違って聞こえる。 これも、佐野さんと只のクラスメートから一歩進めた関係に為れたから。昨日迄とは違う自分。 そんな事を考えていたら SHR の時間も終わり、 1 時間目の授業担任の渡邉先生が受け持っている古文の時間だった。 いけない、いけない。授業に集中しないとと頬を叩き前を向く凛。 4 時間目まで真面目に授業を受けて、昼休み佐野さんの席に行き一緒にお弁当を食べようと誘う事にした。 いつもは、友達と食べる佐野さんも今朝の凛の言葉が気になったのか 1 人机に坐って考え事をしていた。 「佐野さん、話したい事あるからお昼一緒に食べない」と凛が佐野さんを誘った。 「えぇ、そうしましょう。何処で食べるの……此処、それとも食堂がいいかしら」別の場所を指定する友佳。 「だったら、ESS の部室で食べる ? あの場所は邪魔されないし」 凛は親友の久美子に部室の鍵を借りてお弁当を持って教室を後にした。急いで後を追いかける友佳。 場所は何処でも良かった。明日からの事で佐野さんと話が出来るならと 2 人っきりで お昼食べることに夢中で友佳をおいていった事に気付いて慌てて廊下で待っていた。 途中で飲み物を買う為に購買の自販機の前にいた。 烏龍茶とレモンティーを買って部室へと向かう 2 人。鍵を開けて部屋に入っていく。 適当な机と椅子を向かい合わせで並べ机の上にお弁当と飲み物を置き、食べる支度をする 2 人 このままだとお弁当食べる時間がなくなると 2 人は少し乱暴にお弁当の包みを開いて食べ始めた。 突然、佐野さんから話掛けられた 「日下さんって部活に入ってたんだ……知らなかった」佐野さんから驚きの声が聞こえた。 「部活入っていると云っても頭数揃えで名前貸しているだけの部員だし」言い訳みたいな科白を吐く凛。 そうだ、こんな事話すのではなくて明日からの満員電車対策の話しなきゃいけないんだったと凛は傍と気付いた。 「明日からは佐野さん電車の入り口付近に立っていればいいから。 そうしたら私がドアに手付いてでも佐野さんの事守るからさ」 そんなことを云ってくれる日下さんの優しさが友佳には嬉しかった。 込み合う少し前の電車に乗ろう。 2 人で細かい時間帯の打ち合わせをした。 お弁当を食べ終えていた 2 人は包みを元に戻し、飲んでいたブリックパックを潰した。 話していたらあっという間に昼休み終了 10 分前になっていたので急いで机を元に戻し 凛は佐野さんを促して部室を出て鍵を閉め戸締りの確認をした。2 人は部室を出た。 身だしなみなど 2 人は直す為、化粧室に入った。 手を洗い、髪の毛を直して化粧室を出て、1 年 2 組の教室に話しながら戻った。久美子に借りていた鍵を返した。 凛は、残り 1 時間の授業を睡魔と闘いながらも乗り切り SHR ・ 掃除をして帰る時間となった。 本当は、佐野さんと一緒に帰りたかった凛だが合気道に行く日なので足早に学校を後にした。 朝と違い 1 人でとぼとぼと通学路を歩き駅迄急ぐ。 佐野さんを守れるくらい強くならなきゃと自分に云い聞かせて改札を抜けて電車に乗った。 一旦家に帰り、道着を自転車のかごに入れて近所にある合気道の道場へ向かった。 みっちり 3 時間余り合気やって心を落ち着け家に着いたのが夜 8 時頃、お腹も空く時間。 軽くシャワー浴び夕飯食べてから宿題出てたから済ませてもう一度入浴して寝たのは日付変わる頃。 合気道がある日はいつもこんな感じなので宿題なければと思ってしまう凛。 余程疲れていたのか瞬く間に深い眠りに誘われる。起きたら翌日の朝だった。 いつも眠りが浅い凛は、久々にぐっすり寝れたみたいだ。 朝御飯を食べ、歯磨き、身なりを整えて佐野さんと打ち合わせした時間帯の電車に乗るべく家を出た。 駅に向かう途中で佐野さんと逢ってそのまま電車に乗り込んだ。 出入り口付近に佐野さんを立たせ、凛が隣に向かい合わせで並ぶ形にガードする。 小柄な佐野さんは、他の乗客からは見えないのだ。 そんな感じで朝、 2 人は一緒に登校したり皆とお昼を食べる生活を進級するまでの間続けたのだった。 そしてバレンタインにはチョコを交換するくらいの仲になっていた。 時は過ぎ、季節は変わり 4 月。凛と友佳は、高校 2 年生になっていた。 2 人が通う私立如月学園は、 2 年次にクラス替えがあり、凛と友佳は別々のクラスとなってしまった。 凛は 2 年 3 組、友佳は 2 年 6 組。でも朝の登校は今迄通り一緒に来ていた。 初めて出逢った頃よりも凛と佐野さんは打ち解けているのが周りで見ていても分かるのだ。 お昼は、昔みたいに一緒にとはいかなくなったがたまに食堂などで顔を合わすと食べてはいた。 そしていつしか凛は佐野さんのことを友人としてではなく恋人を見るように見つめている事に気付いた。 無愛想に見える自分の態度も裏を返せば照れていることも佐野さんにはバレていた。 私は佐野さんのことが好きというよりも愛していると自覚するのには時間が掛からなかった。 せめて朝の逢瀬だけでもずっとこのまま……と思っている自分がそこにいた。 いつか、自分からきちんとこの気持ちを伝えたい。仮令嫌がられたとしても。 2007/02/09 chibi
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ブログで相互リンクさせていただいていましたchibiさまより、chibiさまサイトのカウンターの「100」を踏んでリクエスト権を強引にむしりとりました。 =リクエスト内容= 『GL オリジナル高校生甘甘なお話』
初々しい高校生の恋愛、まさしく恋の始まり。わくわくしながら拝読いたしました。 凛ちゃんと佐野さんのその後もいつか拝見できたら嬉しいです。 わがままリクエストにお答え下さり、有難うございましたm(__)m chibiさまの素敵サイトはこちら→『★』 ブラウザを閉じてお戻りください |