私達って相思相愛だよね?
好きって、愛してるって、他に違う意味あんのかな?
すっごい悩むんだけど……。
「おはよー」
ぽすん、と音がして私の身体に重みがかかる。
そしてふわりと甘い玉子焼きのにおい。
あたしの朝はそんな風にほのぼのと始まる。
目を開けるとにこにこ笑顔のマナ。その吐息が触れそうな至近距離にちょっとドキリとする。
そしてチュッと可愛い音が私の額で鳴る。
マナの毎朝恒例目覚めのキス。
――唇がいいんだけどな〜。
「ご飯出来たよー。お弁当も!
早く起きないと時間無くなっちゃうよー」
あたしが言葉にするまもなく、あっという間にパタパタとスリッパの音をさせながらマナは出て行ってしまった。
起きぬけのぼーっとした頭でのろのろとベッドに起き直ると、たった今キスされた額をあたしは思わずさすった。
まあ、これが毎朝の事なんだけど。
朝から和食のちゃんとした朝ごはん。
あたしが家事がてんで駄目だからマナには相当な負担だと思うのに、いつもにこにこしながら楽しそうにくるくると働いている。
「いつも悪いね、ありがとう」
あたしが感謝するとふふふとマナはふんわりととろけそうな顔で笑う。
「いーの、いーの、花嫁修業みたいなものだもん」
あたしは飲みかけた味噌汁を吹きそうになってあわてて口元を押さえた。
「花嫁って、結婚するのっ?!」
「やぁだぁ、そんな訳無いでしょ、ユキちゃんたら!
まあ、いつでもお嫁に行けるってだけのこと」
――どこに嫁に行こうっての!
そんな質問はもちろん出来なくて、あたしは味わう間もなく朝食をかき込んだ。マナのペースに付き合ってのんびりしてたら遅刻間違え無しだから。
このマナと、あたしユキは相思相愛のはずだ。
お互い好きだと、愛していると告白しあったはずだし、これは『同居』じゃなくて『同棲』のハズだ。
でも、何でかあたし達の間はセックスレス。
や、まだ枯れてないし。
ていうか、あたしはどっちかと言うと凄くシタイ。
時々、たまらなくなる。
あたしだって性欲あるんだって、マナに口走りそうになる。
でも、『大好き』って言いながらぎゅっとあたしに抱きついてきて、幸せそうな顔ですやすや眠るマナを見ると、何だかむちゃくちゃにして壊してしまいそうで、怖くて手が出せない。
やわらかなキスと安心しきった笑顔と優しい抱擁にこのままでもいいのかな、と思ってしまう。
ただ、このままだと恋人じゃなくて、家族なんじゃないかって思うんだよね。それじゃぁあたしの望んでるモノとは違う。
でも、マナは家族愛を求めているのかも……。
あたし達は6歳年の差がある。
あたしが年上なんだけどね。
あたしは社会人で6コ上で、マナはジョシコーセイでもうすぐ18歳だ。
未成年だから犯罪チックなんだけど、一応あたし達親戚だし、同居って事で両方の親からもちゃんと認められている。
つか、うちの親なんて大喜び。
あたしが生活能力ゼロだから、『マナちゃんが一緒に住んでくれて助かるわ〜、これからもユキの事宜しくね』なんて言ってどっちが年上なのよって感じで。
マナんちは母親が早くに亡くなって父親が海外転勤中で、マナは行くところがなくてうちに転がり込んだようなものなんだよね。
そう考えると、相思相愛って、マナの処世術で真に受けて手を出すのって悪なんじゃないかって気もする。
でもさ、あたしは結構前からマナが好きだった。
親戚だって言ってもはとこだからそんなに頻繁に会うこともなくて、年齢だって他の従兄弟とかと違って結構離れてるからしゃべったり遊んだりする事もそんなに無くて、でも、いつもにこにこしてて楽しそうなマナの姿を見るのが凄く好きだった。
あたしまで幸せな気持ちになった。
あたしが『人と違う』って事で結構孤独だった時マナの笑顔はとても心にしみた。肉親を失った悲しみを知っているからこそのどこか透き通るような笑顔だった。
そんなマナと暮らし始めてあたしはたちまちマナの虜になった。
こんな子好きにならない人はいない!
思わず告白すると、マナも自分も大好きで愛していると言ってくれた。
未だにマナがあたしのどこを好きなのか知らないけど。
マナの愛しているも、好きも、あたしのとは意味が違うのかも知れない。
でも、あたし達日本人だし。
挨拶にしてもマウス・トゥ・マウスはしないよね。
マナは時々自分からとても優しく唇を合わせてくれる。
癒すように、あたしを温めるように。
ただ触れ合うだけの唇と唇。
実際それに何度癒されたか知れない。
だからやっぱり恋人なのは間違いないんだと思うんだよね。
同居じゃなくて同棲であってるんだよね。
ただ、マナの年齢を考えるとまだそういう気になれないのかな、とかも思ったりして。
若いし。
若いとガツガツしてるかな、って思うけど、もともと淡白なのかもしれないし。
世の中には淡白な人もいて、その一人がマナなのかも知れないし。
何せこれが初の両想いだから、あたしも正直どうしたらいいのかよくわからない。
初の両想いだからって初体験って訳じゃないんだけどね。
フリーの時は寂しいからよく他人と肌を合わせてた。
今でも時々誘われるけど、いくら欲求不満でも、恋人がいるのにそんな不誠実なことは出来ない。
ぼんやり考えながらお風呂で頭を洗っていると、いきなりドアが開いて裸のマナが飛び込んできた。
「ユキちゃん、背中流すねー」
わたしの後ろに立って洗いかけの頭を優しくマッサージしながら洗ってくれる。
「流すねー」
それから丁寧に頭を流してもらって、その後優しく、でもしっかりと背中を洗ってくれる。
そのまま手が前に回ってあたしの身体の前も。
そうすると、マナの裸の胸が、あたしの背中に密着して。
あたしの心臓はどきどきと早鐘を打つ。
「ユキちゃんの肌って本当綺麗。すべすべで肌理が細かくて真っ白で。
それにこの胸が大きくて羨ましー」
いつの間にか胸をつかまれてやわらかく揉まれていた。
「や、マナ……」
下半身がジンとしてじんわりと濡れてしまう。好きな人に身体を触られるのはなんて気持ちがいいんだろう。心も身体も喜びの声を上げる。
でも、その喜びは一瞬で、背後からあたしをぎゅっと抱きしめたマナは、
「じゃ、流すねー」
とあたしの身体を流して、自分の身体の泡を綺麗に流すと身体の水滴をぬぐってあっという間に出て行ってしまった。
あたし達、恋人同士だよね?
こういうシチュだと普通ラブラブお風呂でエッチなはずじゃない?
どうしてこうなっちゃうんだろう。
いつもマナはあたしを振り回して終わる。
あたしだってマナの胸を触ったり、もっと凄いことしたいのに。
お風呂から出たあたしはすでにベッドにもぐりこんで眠っていたマナの上にのしかかった。
マナはう〜〜んって唸って眠そうな目をしばたたかせた。
「ユキちゃん、髪の毛濡れてる。
ちゃんと乾かさないと風邪引いちゃうよー」
あたしの下から手を伸ばして生乾きのあたしの髪を触る。
あたしはその手をつかんで、
「我慢できない、セックスしよ」
口から心臓が出ちゃいそうだった。
マナはびっくりした顔をゆっくりと笑みに変えた。
「うん」
その嬉しそうな返事に、あたしは天にも昇りそうな気持ちになる。
「でも、その前に髪乾かそうねー」
チュッと音を立ててあたしの唇にキスをすると、マナはすばやくドライヤーを取りに出て行ってしまった。
――お、お母さん??
丁寧に髪の毛を乾かしてもらいながら気持ち良くて目を閉じる。
そしてセックスレスなのはマナのせいじゃなくて、もしかしてあたしのせいだったのかな、という疑問が浮かんだ。
年上だけど、あたしが手がかかる子供だからなのかな?
でも、そんなことはもうどうでもよくて、これから起こる、めくるめく快楽に、あたしは期待に胸を膨らませた。
END