エイプリルフール | |
「あのね、実は私ビアンで、志穂美を愛してるの」
開口一番私が告白すると、一瞬きょとんとした顔をした後志穂美は身体を折って爆笑した。 「茉莉、それ、下手すぎっ! もっと信憑性ある嘘つかなきゃっ!」 「そ、っかなぁ。ほら、前に噂で私と志穂美がデキてるってあったじゃない。だからイイセンいってるかなぁって、思ったんだけど」 「あああ、あれね。それはそうだけど、じゃあ逆に今の嘘は他の人には言わない方がいいかも。茉莉がそれっぽいって噂は確かにあるし……」 噂と言うか何と言うか、初めてその噂を聞いた時、ああ、人って意外とちゃんと他の人間のこと見てるんだなぁって感心した。 そう、私はこの親友の志穂美が好きなのだ。 親愛という意味ではなく、愛してる。 見る人が見ればそれは判ってしまうんだ。 私の秘めたる気持ちなど、筒抜けなのだ。 でも幸いにして私の愛情の対象たる志穂美は判ってない。 だから、一年に一度くらい、自分の正直な気持ちを堂々と相手に告げてもいいと思う。 今日くらいは胸を張って愛していると言いたい。 だって今日はエイプリルフールだから。 「あのね、実は私ビアンで、志穂美を愛してるの」 言われた瞬間、息が止まった。 でも、ああ、そうかと、たちまち理解する。 今日は4月1日、エイプリルフールと呼ばれる日だ。 だから茉莉は嘘をついてる。 私は胸の痛みを隠すように身を折って大袈裟に笑った。 茉莉の無邪気な嘘さえ、私をずたずたに切り裂く。 嘘でしか私は愛していると言ってもらえないのだ。 そう思うと心が重たく冷えてしまう。 ずっとずっと茉莉が好きだった。 親友の茉莉が好きで好きでたまらなかった。 一時期私と茉莉がビアンだと噂がたったことがある。 その時私はしみじみ思ったのだ。 他者の目って節穴じゃないな、って。 私の気持ちなどバレバレなのだろう。それでも茉莉にだけはどうしてか伝わらない、この気持ち。 私は笑うことをやめて、茉莉を見つめた。 「それじゃぁ、私も茉莉を愛してるって事で……」 今日はエイプリルフール。 楽しく可笑しく、そして切なくて悲しい日。 |