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バレンタイン
 親友の茉莉と超人気のテーマパークへ行く日は世間ではバレンタインデーと呼ばれている日だった。とても混むそのテーマパークは平日でなければ楽しむよりも並んでいる時間の方が相当長くなってしまうのは万人の知るところだった。
 丁度学校の振り替え休日のその日にテーマパークへ出かけることが決まったのはお互いにバレンタインを一緒に過ごす恋人がいなかったから。
 私は当然だ。
 だって、私はずっとずっと親友の茉莉だけが好きだったから。
 茉莉に今恋人がいないと知って、その特別な日に茉莉と一緒に過ごせると思うと地に足が着いてないんじゃないかと思うくらい私は浮かれてしまった。
 どんな乗り物に乗っても身体が触れ合っていつもより一歩より近くに茉莉の存在を感じる。
 そのあまりの幸せに、多分私はどうかしてた。
 ステック状のパイの中身をどちらにするか並びながら二人で思案する。
 茉莉はチョコが好きだ。
「じゃあ、私がスイートポテトにするね」
「えー、チョコにしないの?」
「だって同じじゃつまらないじゃん」
「同じの食べたいよぉ」
「一本ずつ違う味にして半分ずつ食べようよ」
 私の提案に茉莉の瞳が輝いた。
「すっごく美味しくて全部食べちゃったらごめ〜〜ん」
 そう言いつつどちらの味もちょっと楽しみにしている様子が窺える。そんな茉莉はすっごく可愛くて私は眼を離せなくなってしまった。
 普段もこんな感じで取り分けたり半分こにするのは日常だけれど、場所が場所だからいつもより私達はずっと開放的になっていた。
「や〜〜ん、おいしーっ」
 蕩けそうな笑顔で茉莉がパイにかじりつく。
「こっちもなかなかだよ」
「ぃや〜〜ん、楽しみ〜♪」
 そして半分食べたところで交換した。
「スイートポテトも美味しい!」
 喜色を浮かべてかぶりつく茉莉の隣で、私は少し緊張しながら茉莉から渡されたチョコレートクリームに口をつけた。
 それは、間接キス。
 それから、今日はバレンタインだから……。
 茉莉にそんな意図はないけれど、それでも茉莉からのチョコは嬉しい。
 小さな小さな、私のささやかな喜び。
 チョコレートクリームのパイはとても甘くて、今、茉莉にキスをしたらきっとこんな風に甘いのだろうな、と私の胸が高鳴った。


 バレンタインデーに志穂美とデートをする。
 もちろんデートだと思っているのは私だけだけど。
 でも、その特別の日に、愛する人と出かけられるのはとってもラッキー。
 ドキドキしながら眠れない夜をすごして、翌日は天気にも恵まれて始終笑顔の志穂美にドキドキわくわくしながら、並んでいるのでさえ楽しくてずっとずっとこの日が終わらなければいいと思った。
 棒状のパイを食べようと長蛇の列に並ぶと味が2種類あることを志穂美に告げられて私はちょっと悩んでしまった。チョコが大好きな私。
 でも今日はバレンタインデーで、私からチョコは上げる事ができないからせめて一緒にチョコを食べたいと思ったから。
 そうしたら思わぬ志穂美の提案に私は舞い上がってしまった。
 だって、私から志穂美へ、チョコをあげる事ができるから。それは食べかけで、ちょっと格好はつかないけれど。でも、私の思いをのせたそれを志穂美が口にする。
 そう思うだけで鼻血が出そうだった。
 私の食べかけの残り半分にそっと口をつける志穂美の姿に、今自分が口にしたスイートポテトはその志穂美の唇がついたものだと気がついて顔から火が出そうになってしまった。
 半分こにしたりするのはよくあることだけど、それでもこんな特別な日に、大好きな志穂美と一緒に過ごして間接であれ、キスが出来るなんて……。
 嬉しくて、嬉しくて思わず志穂美の指に自分の指を絡めると、志穂美はびっくりした顔をした後、にっこりと笑って私の手を握り返してくれた。


 なんて素敵なバレンタイン!