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花吹雪
 何故私は生きているのだろう。
 どうして私は生き続けなければならないのだろう。
 ただ抜け殻のようにその生をまっとうする為に。
 それがあなたとの最後の約束だから――。


 花冷えの宵の口、はらはらと雪のように舞い散る花びらに自分を抱き締めて、一人あなたを思う。
 「桜は散り際が美しくて好きよ」
 柔らかな透き通るような声音でそう言ったあなたがまるで今ここに居るかのように、それが昨日の事であるかのように思い起こすことが出来る。
 花びらのシャワーを浴びながら身震いするような寒さが、花冷えのせいではなくて、孤独のせいだという事に気がつく。
 そう、あなたと花を見に来た時はいつももっと寒かった。なのに心は温かであなたで満たされていたから、寒さなど少しも感じなかった。
 あなたが傍に居るだけで、私はいつも幸せだった。
 あなたの言葉と心は私の血肉になり今も私の中で息づいている。
 そのかけらが、あなたを恋しいと毎夜泣くのだ。
 夜の闇にぼうっと白く滲むように浮かぶ美しすぎる桜と、その舞い散る花びらにただただ悲しみに胸を塞がれて、私は泣き続ける事しか出来なかった。
 何年経ってもこの悲しみは消えることがない。
 あなたへの想いが私の中から失われる事がない。
 否、手の届かないほど遠くへ行ってしまったあなたへ、日々さらに想いが募るようにすら感じる。
 それは永遠の恋。
 ただ一度きりの恋。
 悲しみに泣き濡れても、毎年散りゆく花びらを見ずにはいられない。
 それは、私にとってあなたそのものだから。
 美しさと儚さとそしてどこか凛としているさまがまるであなたそのものであるかのように、私はあなたに会わずにはいられない。
 あなたを想わずにはいられない。
 空気までもが薄桃色に染まっているかのような幻想的なその空間で私はただ涙する。
 あなたがいないと。
 ここにあなたがいないと。 


 あなたを失った永遠の孤独が私を苛む。
 どうか、どうか――。
 私は呪文のような言葉を飲み込んだ。
 いつか必ず私はあなたの元へ行ける。
 それが少しでも早ければ良いと想う。
 きっとあなたはそれを望まないでしょうけれど。
 あなたを失っても生きていかなければならない自分に、生き続けなければならない自分に、抜け殻のような自分に、鞭打つ。
 いつかあなたの元へ行った時、あなたに誇れる自分でいたいから。
 自分の出来る事は精一杯しようと。


 何が最善かはわからないけれど、明日、私は結婚する。
 あなたと共に死んでしまった私の抜け殻が、明日結婚する。
 この広い世界のどこを捜してももう、あなたがどこにもいないから。
 永遠に明日が来なければいい。
 このまま花吹雪に埋もれて冷たくなってあなたの元へと行きたいのに。
 夜は明け、陽は昇る。
 必ず明日は来てしまう。
 それでも毎年この時期だけはあなたと共に過ごそう。
 心だけはあなたに永遠の愛を誓って。
 あなたとの最後の約束だから。
 私は生き続ける。
 抜け殻のまま。