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鐘の音
 私が、絶望と眩暈を歯を食いしばって堪えている中、君はふんわりと幸福そうに笑って喜びに溢れる声で言った。
 ――6月の花嫁なのよ。


 急な告白に現実を受け入れられないでいると君が心配そうに私を覗き込んでくる。
 「そんな……急に……」
 とぎれとぎれに言葉を搾り出すと、君はちょっとだけバツの悪そうな表情を浮かべて。
 「急だけど、たまたま式場にキャンセルがあったから……」
 聞きたいのはそういうことじゃない。
 私が首を振ると、君はほんのりと頬を薄紅色に染めて、目を伏せた。君の手がほっそりとした自分の下腹部に当てられるのを、目にして予感におののく。
 「子供が出来たの……。彼の子よ」
 ああ、私の全身が、恐怖と絶望にがたがたと震えた。
 「わ、私達、……恋人同士だと思って、いたわ……」
 声が酷く掠れて、自分の声じゃないように遠く感じる。
 「そうよ。今だって勿論私達恋人同士よ」
 あっさりと答える君を私はビックリして見つめた。たった今結婚をすると報告した同じ唇で、私達が恋人同士であることを肯定するその厚かましさ。
 「彼は子供の父親だし、結婚して夫になって父親になってもらうわ。でも愛してるのはあなただけなのよ」
 伏し目がちな目を上げて君は燃えるような眼差しで私を射た。
 「結婚しても私達は恋人同士よ。――だからずっと傍にいて!!」
 私は何度も口を開こうとしては閉じた。
 自分が何を言おうとしているのか判らなかった。
 けれど、言わなければとひどい焦燥感に駆られる。
 「知ってるの? 彼は…。私達の事??」
 君はゆっくりと首を振る。
 その目は確信犯の目。
 「彼を……利用、するのね??」
 ごくりと、私の喉が嫌な音を立てた。
 「彼はこの子の父親なんですもの。利用するわけじゃないわ。彼に責任を負ってもらうだけ、この子に対して」
 夢見るように謳うように君は言葉を続ける。
 「私は従順な妻になって良い母親になるわ。ただ、彼じゃない人を愛しているけれど。でも、真実を知らなければ彼は幸せだと思うわ」
 残酷なその言葉を聞きたくなくて思わず私は耳を塞いだ。
 君は私の傍によってやんわりと私の両手首を掴み、耳から手を外させた。
 「ずっと欲しくて必要だったものが手に入ったの。もう一生あなたと離れないですむのよ」
 うっとりとしながら私の両方の掌にかわるがわるに唇を落とす。
 「一生離れないで……愛してるわ」
 君の言葉が私を雁字搦めにする。息もつけないほどきつく縛り上げる。その苦しさが甘い痛みを伴って私の脳を痺れさせるのだ。
 私はもう、逃げられない。
 否、はじめから逃げ出す気などなかったのだけれど。


 ジューンブライド。
 六月の花嫁。
 頭上で鳴る教会の鐘の音が、まるで警鐘のように私の全身を刺し貫いた。
 結婚、おめでとう。