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絡めとる熱
 それが、罪だと知っていた。
 それでも罪を犯さずにはいられなかった。
 ただ狂おしいばかりの恋情を、生かすために。


 私が一目で恋に落ち、何年も恋焦がれた相手は同性で、それだけならばまだしも私が見続けているよりもずっと長い年月、ただ一人の相手を愛していた。
 それも同性を。
 だから――私は優しい言葉と、柔らかな愛撫で、彼女を絡めとったのだ。
 それが、罪だと、――知っていた。


 「今は私を好きじゃなくても、いつか私を好きになってくれるなら……」
 私の言葉に彼女は困ったように、それでも仄かに頬を染めて頷いてくれた。
 だから私は決して逃さない。
 例え、彼女たちが両想いであるとずっと前から知っていたとしても。
 やっと、手に入れたのだから、大好きな彼女を。
 たとえ彼女が苦しんでも、それでも私は彼女を手放す事が出来ない。
 これはもう、愛ではなく執着だと。
 誰かに指摘されれば否定できないかもしれない。
 だが、この執着も愛なのだ。
 愛している。
 手に入れても私のものにならない彼女を。
 執着し、雁字搦めに縛り上げてしまうほどに。
 彼女は私の柔らかで優しい言葉の数々に縛り上げられ、息も絶え絶えなのに。


 レイナは自分の事を舌足らずの甘ったるい声で「レイ」と呼ぶ幼馴染を私の視線から庇うように背中を見せて抱きしめ、慰めていた。
 泣き叫ぶ子供をあやすというよりは、まるで助けを求めるようにすがりつくかのような抱擁だった。
 私の視線を感じてそのしなやかな背中を強張らせている。
 だから、私は言う。
 優しく愛情深げに。
 燃えるような本心を隠して。
 「私の事はいいから。今はカオリさんを慰めてあげてね。私、帰るわね。また明日」
 震える肩にそっと手をのせてなだめるように優しく優しく触れる。
 打たれたように顔を上げたレイナの瞳に動揺が走った。
 その顔に笑いかけ、ゆるゆると手を振る。
 そしてレイナの家を後にした。
 人の心を操るのは簡単だ、とても。
 けれど、操れたからといって、その心が変わる訳ではない事を、私は知りすぎるくらい知ってしまった。
 「ゆっくりでいいから。忘れなくていいから。いつか私の方を少しでも多く好きになってくれればいいから……」
 レイナに告げたその言葉は私の本心だ。
 手に入れても苦しい。
 入れなければもっと苦しい。
 

 それが、罪だと知っていた。
 それでも罪を犯さずにはいられなかった。
 ただ狂おしいばかりの恋情を、生かすために。


 背後から近づいてくる足音に涙がこぼれそうになる。
 絡めとられたのは、では、――私?
 私の介入がなければ両想いの二人。
 なのにこの気持ちを諦める事も捨て去る事も出来ない。
 私達のこの恋はどこへ行くのだろう。
 背後から私を抱きしめてくる温かな腕に、目の奥が焼け付くように熱くなる。
 鼻腔を仄かにくすぐる彼女の匂いに、めくるめくような眩暈を覚えた。