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愛しているって死んでも言わない
 いつからだろう。
 やたらとプライドが高くて、美人で、ちょっとわがままで、私にだけは態度が特に冷たい彼女に夢中になってしまったのは。
 可もなく不可もないようなぬるま湯の中で生きてきた私の前に驚くほどの色彩で、鮮やかに生きる彼女が現れた。
 そんな彼女に誰が惹かれずにいるんだろう。
 パーフェクトな彼女なのに、何故かとり得のない私に絡んでくる。
 「次は絶対負けないから……」
 たまに成績で私が彼女に勝つと、彼女は顔を真っ赤にして宣言しに来る。
 だから私は一生懸命頑張るのだ。
 彼女に嫌われたくないけれど、彼女の目に映っていたいから。
 はたから見れば彼女と私は火花を散らしているライバル同士に見えるだろう。
 けれども私は彼女の崇拝者の一人なのだ。
 彼女に優しい言葉をかけられる私以外のすべての人間に嫉妬し、彼女に笑いかけられるすべての人間に憎悪に似た気持ちをいだくほどに。


 時々くじけて口走りそうになるけれど、「愛している」なんて死んでも言わない。
 私が心を告げてしまえば彼女の私への興味はあっけないほどに薄れてしまうだろうから。
 彼女が私を気にするのは、他の誰とも違って私が彼女になびかないから。
 彼女を嫌っているように見えるから。
 プライドの高い彼女にはそれが我慢できない。
 敵視するか、懐柔しようとするか二つしか方法が無いのだ。
 高すぎるプライドは懐柔を許さない。
 彼女は絶対に私の元には降りて来ない。


 彼女から興味を失われないように、私は日々真剣勝負。
 愛しているって死んでも言わない。
 この恋は戦いだから。
 勝つことは無いけど、絶対負けない。