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愛しているって言わせてみせる
 ふと視線を感じて振り返るといつも彼女がいた。
 眼鏡をかけて、控えめで、秀才の彼女。
 誰にも打ち解けることなく、ひっそりと、でも端正な姿勢で佇んでいる。
 彼女と私はいわゆるライバルで考査テストの度に学年主席を争っている。
 もし私の成績が彼女を脅かさなかったら、彼女の茫洋とした眼差しに私が映る事はなかっただろう。
 彼女にとって私はただのうるさく騒がしいクラスメイトに過ぎないから。
 だから、必死になって誰も気づかないところで必死になって私は勉強している。
 彼女の視界に入れてもらえるように。
 他者は私を我儘だとかお嬢様だとかちょっと美人だからいい気になっているとか勝手な事を言っている。
 でも、私は私が出来る最善を尽くして努力している。何よりも自分のために。
 彼女にいつか私を「愛している」と言わせるために。


 あの日まで、私と彼女はただの級長と一生徒だった。
 彼女は私の事を派手好きでうるさい女だと認識していたようだけれど、私は級長である彼女の事をまるで人形のように感情の乏しい人間だと思っていた。
 梅雨の晴れ間の、まるで真夏のように晴れ渡ったあの日の放課後、教室には他に誰もいなくて、忘れ物をとりに戻った私は机に伏して眠る彼女を見つけた。
 その寝顔は意外に幼くて、大人びて端正な彼女を大きく裏切っていた。
 だから私はふらふらと引き寄せられるように彼女の傍に寄って息を詰めて寝顔を眺めてしまった。
 長い睫毛が僅かに震えて、私の気配に彼女が目覚めるのだと判った。なのに私の足は縫いとめられたように動かない。私の目は彼女に吸い寄せられたまま瞬きすら忘れて。
 ゆっくりと起き上がった彼女は私を見てそれはそれは幸せそうにふんわりと笑った。
 心臓が一度大きく脈打ち、止まる。
 彼女は夢の残滓を振り払うように首を振ると慌てて外していた眼鏡をかけ、私を見て目を瞠った。
 私の止まった脈動が突然蘇る。
 彼女の笑顔はいったい誰に向けられたのだろう。
 それは私ではない誰か。
 そう思った瞬間、軋むように胸が痛んだ。
 「どうしたの? 忘れ物?」
 彼女はいつもの無機質な表情に戻って級長らしい言葉をかけてくる。その眼差しは茫洋として決して私を見てない。


 今は私をただのうるさいクラスメイトとしか認識していなくても、いつか、絶対に、「愛している」って言わせてみせる。
 彼女の目を私だけにクギづけにしてみせる。
 絶対諦めない。
 いつか愛されるその日まで。