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夏 服
 もうすぐ、暑い夏が来る。
 梅雨に入る前に制服の衣替えがあった。
 毎日共に登下校して、昼休みやお弁当の時間を一緒に過ごしているのに、最近の私はあなたを見ることが出来ない。
 衣替えの前の暑い日、長袖のブラウスをひじまで捲り上げて肉づきの薄い白い腕がむき出しになっている姿を見てから私はどこかおかしい。
 あれは、そう、多分――。
 否定しても吸い寄せられたように私の目が華奢な腕や、ボタンを外して緩められた胸元、纏めて上げられた髪によってむき出しになった後れ毛のほつれる白すぎるうなじを見る。
 そう、私は欲情している。発情期の獣のように。でもそれと違うのは対象が同性だということ。
 なのに、制服は衣替えの時期を向かえ、長袖ブラウスは半そでに、足元は短めの靴下に変わった。すらりと伸びた肉の薄い足に、とがったくるぶし。アキレス腱の窪みが作る影に目が吸い寄せられる。深く開いた襟ぐり、惜しげもなくむき出された輝くように白い二の腕。
 なんてこと。
 あなたは真夏の太陽のように輝いて私の目を射る。心を射抜く。
 「なんかこのとこ元気なくない?」
 白昼夢のように幻惑されていた私の顔をあなたが覗き込む。
 なるべく見ないようにと気を付けていたのに目の前にドアップが……。
 ふっくらとした頬の丸みや、艶やかなピンクの唇が、長い睫毛がびっしりと生えている瞬く瞳が、あなたを構成する全てが私を激情に駆り立てる。
 こんなにも好きなのに。
 胸が痛いほどに思い慕ってるのに、あなたははるかに遠い。
 陽光の下曇りなく笑うあなたは自分の身体が落とした影にすら気付かずに生きて行く。
 今までそうであったように、この先ずっと。
 私はあなたの落としたくっきりとした濃い影の中に、ひっそりと息づいてあなたの傍に立とう。
 理性の限界が来るその瞬間まで。
 「なんでもない。暑いからだるくて……」
 首を振って答えると、ふいにあなたの手が伸びて私のほてった頬に触れた。何の感情も無いからこんなにも無防備に触れてくるのだ。気持ちがあるからこそ、私は触れることが出来ない。
 ひんやりとしたあなたの手にさらりと頬を撫でられて私の熱はますます上がる。
 鮮烈なまでの太陽の下、夏服の白が目に染みる。
 ――心に、染みる。