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桜、咲く
 降りしきる桜の花びらの雨に、そこだけ空気ですらも桃色に染まっているかのようなそこに、あなたは静寂をまとって佇んでいた。
 私は我を忘れてあなたを見つめ、ふと気付いたあなたは振り返り、不思議そうな顔をした後、綻ぶように微笑んだ。
 その瞬間に私はどうしようもなくあなたに囚われてしまったのだ。
 あなたが微笑むだけで私は息が出来なくなる。
 あなたが悲しむだけで私は胸が張り裂けそうになる。
 こんな気持ちは初めてで、私はどうしていいか判らなくなる。
 ただ傍にいるだけで、あなたの体温を感じるだけで身体の奥底から湧き上がる熱に翻弄されてしまう。
 この想いに名前を付けたら、もう引き返せない気がして、ずっとずっと友情と言う親友と言う隠れ蓑の中で身を縮こまらせていた。
 けれどももう、自分の心を押し殺して親友の顔は出来ない。
 もう、自分の欲望をごまかしてあなたの傍にはいられない。
 あの、桜吹雪の中、出会った日からこんなにも遠くに来てしまった。
 私の心だけこんなにも一人遠くへ来てしまった。
 どこへ行くとも知れない場所へ流され続ける私の心。
 ああ、また桜の季節がやって来た。
 この想いに花咲かせよう。
 たとえ受け入れてもらえない想いでも、私の可哀相な想いに名を与えよう。
 恋と言う名を。
 また、桜が咲く。それは見事に何度でも、咲く。
 あなたの隣にいることは出来なくなるけれど、この気持ちに決着をつけよう。
 「ずっとずっと、あなたが好きだったの……」
 一方的なこの想いに、可哀相な私の恋に、実らないこの恋に花を咲かせよう。
 今、桜、咲く。
 ひっそりと――。