接 吻
(注:微妙な表現が含まれています)
繊細な作りの指が柔らかな曲線を辿る。額からこめかみを通って頬に下りてきた指はまるで記憶に刻み込もうとするかのようにひどく慎重に。仄かに色づく頬をその赤みを写し取ろうとするかのように幾度も指先が彷徨う。
やがてその指は顎まで辿り着くと少しだけ力が篭り、僅かに顔を上に向かせる。親指が何度も艶のある唇の形をなぞり、硬く結ばれていた唇が少しずつ綻びてゆく。見つめる瞳の奥には熱が宿り潤んでほのかに揺れる。甘い吐息を零すその綻びた唇が何か言葉を紡ぐ前にそれは柔らかな唇で塞がれた。薄く開いた綻びからぬるりと湿った温かな舌が差し込まれ、やはり丁寧に口腔をなぞる。歯茎やつるつるの歯列を舌先がゆっくりと辿り、奥へ奥へと侵入して躊躇うように縮こまる舌を悪戯に舌先でつつき、やんわりとなめあげる。
「あっ、……ん、ふ」
強張ってた身体の力が次第に抜けてゆく。それを察して倒れてしまわないように抱き締める腕に力が込められた。
どちらのものともつかない鼻から抜ける甘えたような声にこみ上がってくるのはひどく激しい熱い塊。
縮こまり躊躇いを見せていた舌が自身から積極的に絡まり、動きはじめる頃には嚥下しきれなかった唾液が唇の端からいく筋も伝い落ちた。それすらも逃さぬとばかりに喉仏を伝う筋を柔らかな舌が舐めあげる。
「ああっ……!」
ぶるりと身を震わせて脱力する相手を壁に押し付けるようにして抱えなおして逃さぬとばかりに再び口腔への蹂躙が始まった。
息もつけないほどの熱に、吸い上げられる柔らかな舌に、舐めあげられる敏感な口腔に、何もかもが柔らかなのにどうしてか嵐のように感じる逃れられない口づけに、絡み合う舌先から想いが溶け出していく。
この眼差しと口づけの前には言葉さえも必要ないのだ。そう思うだけで脳の奥が痺れるような愉悦が身体を駆け抜ける。
舌先が悪戯に色づいた唇の輪郭をなぞる。その僅かな隙間にどうしてか堪えきれない何かを感じて舌を差し出して絡みつく。空中で接触した舌先は熱い何かをお互いの体内に流し込んだ。隙間も無いほどにぴったりとくっつく唇と身体。
もっといやらしいことをたくさんしたいのに、お互いのうちの熱をもっと感じあいたいのに、どうしても離れ難くてそのまま延々と湿った音を立てて口づけを繰り返す。
互いに愛の言葉を飲み込んで。