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白の日

 瞳と頬を輝かせて全身を喜びにうち震わせている、君。
 そう、誰だって君のように可愛くて眩しいくらい綺麗な女の子から好かれたら、君に夢中にならない訳がない。
 些細な、日常の、ふとした欠片を与えられる私ですら、こんなにも君に夢中なのだから。


 バレンタインデーに告白した相手とその後なんとなく付き合うようになって、友達以上恋人未満の微妙な感じになり、そして今日、ホワイトデーにバレンタインのお返しと共に本格的に申し込まれたのだと言う。
――気障な男。
 私が口の中だけで悪態をつくと、世界中の幸せを一身に集めたような君が振り返ってこぼれるような笑顔を見せる。その溢れてこぼれた幸せの欠片は、私の心を強く掻き乱して喜びと鈍い痛みを与える。
「良かったね」
 私は心にも無い言葉を声にのせた。
「有難う! ずっとちゃーちゃんが支えていてくれたからだよ」
 それは違う。
 私は何もしなかった。強いて言えば全身全霊で祈った。君の恋の不成就を。
 小さな頃から何度も何度もそうして私の中で繰り返された呪文はまるで呪詛のように私を雁字搦めに縛った。どうして私は君と出会ってしまったんだろう。どうして私には君しか見えないんだろう。どうして君はそんなにも私に眩しいんだろう。
 煌く君に幻惑されて私の目には君以外に何も見えない。世界が君だけで満たされ、私は君にすべてを左右されてしまう。
「で、ちゃーちゃんは??」
 浮かない様子の私を気にした風もなく、君は私の恋の行方を問う。
 私が長いこと誰かに片思いでいることに気づいている、君。その相手が自分だとは知らずに。
 私はただ、首を横に振った。
「ちゃーちゃんに好かれているのに振り向かない相手がいるなんて信じられない!」
 無邪気に肩を竦めるさまに、目の奥がカッと熱くなった。君に焦がれる気持ちが熱く暝い塊に一色に塗りつぶされていく。
 私が君を好きだと言ったら燻るこの気持ちはどんなにすっきりするだろう。幼馴染みで親友と言う皮を被ったケダモノに過ぎないのだと暴露すれば、君はどんなに傷つくだろう。理性と愛情と劣情と嗜虐心が私の中でせめぎ合う。
 君の柔らかな心を無残に引き裂きたい。けっして私へと向かわない気持ちを鎖で縛り上げたい。
 思わず掴んだ君の腕が、握り潰せそうに華奢で柔らかで、私は頭から冷水を浴びせられたように現実に引き戻された。妄想はとても自分に優しい。けれどもそれは実行すれば何もかもを失う諸刃の剣だ。
「え、なに?!」
 急に腕をつかまれてびっくりした顔の君に、ゆっくりと笑顔を作ってみせる。大丈夫。まだ私は正気でいられる。
「――両想いになれて良かったね」
 自分の言葉が空しく響いた。
 そう、それは君を笑顔にさせる言葉だ。私は知りすぎるくらい知っている。
 私の祝福の言葉に更に喜びに輝いた君の姿は、もう眩しすぎて見ていられなかった。視界が真っ白に焼け付く。


 ――それは白の日。


2007年3月11日〜4月4日迄の拍手でした。