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君と私
 「おかしい」
 それは最近の君の口癖。
 「こんなに美人で性格が良くて、頭もいいしスポーツも出来るのに……なんで私ってモテないの??」
 淡い色の唇を尖らせて子供っぽい仕草で君が呟く。
 「まあ、それは一見非の打ちどころがないからでしょ。きっと求めるものの真逆なのよ」
 「真逆??」
 「そ。頭が悪くて運動神経がなくてそこそこ可愛くて、でも自分にだけにはとっても優しくて、一緒にいても疲れない、守ってあげたいタイプが一般的に好まれるんじゃない?」
 そう、一人の人間として非の打ちどころがなくても、一緒に居て気疲れして万人に平等に優しい君はどうしたって好かれる要素は少ない。その上美人で秀才でスポーツ万能とくればそれを凌駕して自分に自信がある男しか寄って来ない。所詮、高校生程度では君に太刀打ちできないから。
 「おじさんには好かれるんだけどなぁ。やっぱり私って魅力ないかなぁ。おじさんは若い子だったら誰でもいいんだものねぇ」
 落胆したように呟く君に私は励ましの声をかける。
 「私だってモテないよ。――それに自分が好きじゃない相手にモテても仕方がないじゃん」
 「う〜ん、それはそうだけど」
 「私はさ、誰に好かれなくてもいいからたった一人の大好きな人に自分を見て、好きになって欲しいと思うよ……」
 その“たった一人の大好きな人”に向かって言う台詞の空しさ。
 自分が決めた事だから親友として傍に居るって決めた事だから、弱音は吐かないけど。それでも誰の恋人でもない君をもう暫く親友として独占できるのを私は確かに喜んでいる。
 君は高嶺の花だから。
 私にとっても、そして大勢の男の子達にとっても。
 その艶やかな唇は私に愛の言葉を紡ぐ事はないけれど。
 それでも愛さずにはいられない。


 「そうだね。じゃあお互い大好きな人を頑張って作ろう」
 眩しいような君の笑顔に、見ていられなくて目を閉じる。
 飲み込んだ言葉は乾いた音を立てて私の胸にこだました。