ふたり 3




 家に帰り着くと、真っ暗になった部屋のベッドの上で、青葉が膝を抱えていた。
「青葉? 電気もつけないでどうしたの??」
 私がスイッチに手を伸ばすと、
「つけないで!」
 青葉らしからぬ鋭い声が飛んできた。
 だから私はそのまま指を伸ばして電気のスイッチに触れた。
 ぱちりと場面が切り替わるかのように真っ暗な部屋が明るくなる。
 膝を抱えた青葉は膝に頭をつけて身を縮こまらせた。
 自分の机に鞄を投げ出すと、青葉のベッドに膝で乗り上げて、青葉の肩に触れる。青葉の肩は小刻みに震えていた。
「青葉、どうしたの?
 泣いてるの?
 青葉が泣くと私も辛いよ……」
 膝を抱える青葉の上からそっと抱きしめる。
 こんな風に青葉が泣く姿を初めて目にしたから、どうしていいか、わからない。
「泣かないで」
 ただただ、そうして抱きしめてあげることしか私には出来ない。
 暫くそうしていると少し落ち着いたのか、青葉が身じろぎをした。
 青葉を抱きしめる腕を少しだけ緩める。
 すると青葉が顔を上げて濡れた瞳で私を見つめた。
 私は涙に濡れた青葉の頬と目じりに涙を拭うように何度もキスをした。泣いている青葉を見るだけで胸が引き裂かれそうに痛んで悲鳴が上がる。
「泣かないで……」
 青葉が濡れた瞳を静かに閉じると、はらりと涙が零れ落ちる。
 その涙が濡らした唇に、私は吸い寄せられるように唇を重ねた。
 濡れた、やわらかな、感触。
 何度もついばんで唇を重ねて、それでももっと青葉に近づきたくて、青葉と溶け合いたくて、自然と青葉の唇を舌で割った。
 青葉の身体が一瞬、強張ったのが判ったけれどやめられなかった。ツルツルの歯列を割って、青葉の温かな口の中を味わう。ざらりとした舌を見つけて絡めたり、こすり合せたりしていると、青葉の身体から力が抜けて、唇から甘い吐息が漏れた。
 力の抜けた青葉の身体は私が支えるには重く、キスをしたまま後ろに倒す。背中に回していた手を離して、両手とも青葉の指と絡めて、強く握る。
「あ……」
 青葉の上にのしかかって重なり合った身体の、着ている制服が、なんて邪魔なんだろうと、ぼうっとした頭で少しだけイラつく。
 ブレザーを脱がせて、リボンを解いて、ブラウスをはだけさせて、窮屈な下着から身体を解放させて、溶け合えたら……。
 ぞくぞくとするような欲望が胸の奥から膨らんで、今にも破裂しそう。
「青葉……」
 ちゅっと音を立てていったんキスを止めて青葉の顔を覗き込むと、うっとりととろけたような瞳で青葉が私を見つめていた。
 このままとろとろのぐずぐずに、溶け合ってしまいたい。
 気が遠くなるほどに、青葉を愛しているから。
 青葉も同じ気持ちでいてくれればいいのに。
 私は膨れ上がる凶暴な欲望に蓋をして、青葉の上から身を起こした。
「若ちゃん!」
 なのに、青葉が指を絡めたままの両手を自分の方へ引いたから、私は再び青葉の上に倒れこんでしまった。青葉の大きめな胸が私の胸とぶつかって、やわらかに受け止めてくれる。
 密着した胸から早鐘のような青葉の心臓の音が聞こえて、きっと私の煩く悲鳴を上げている心臓の音も青葉に響いてる。
 重なる私達の鼓動が、眩暈がするほど気持ちが良い。
 私が男であれば、熱いぬかるみに自分の欲望を突き立てて解け合うように深く交わる事が出来たのに。
 同性で、しかも一卵性双生児の姉妹。
「若ちゃん……」
 甘く囁くように青葉が私を呼ぶ。
 熱に浮かされたようにとろけた瞳をまぶたで隠して、わずかに頭を持ち上げると、チュッと音を立てて、私の唇に自分の唇を重ねた。
「若ちゃんが、若葉が好きよ、愛しているの……」
 蜜を解かしたような甘い囁きに、私の背中を甘い痺れが走った。
 そして、青葉の閉じた目じりから、はらはらと丸い涙がまたこぼれ落ちた。