友佳は、最近朝の通学時の痴漢に遭わなくなった。 これも日下さんが毎朝一緒に居てくれるお蔭だ。 11 月、自分の不注意で日下さんを痴漢と勘違いしたあの日から半年が過ぎた。 進級して 2 年生となり日下さんは 2 年 3 組、私は 2 年 6 組と別々のクラスになってしまった。 友佳に阿部久美子さんという組み合わせ、高瀬深雪さんと日下さんという組み合わせになっていた。 彼女と接すれば接するほど自分の中の何かが変わってゆく。 私は日下さんのことをどう思っているのだろう。徒の友達という訳はないはず……
世の中では、黄金週間と呼ばれるプチ休み迄あと 10 日と迫った日の朝のこと。 いつものように朝の通学電車内、たまたま空いていて 2 人共並んで座席に坐れた。 いつも口数の少ない私が勇気を振り絞り自分から日下さんを誘ったのだった。 「えーと……日下さん、黄金週間何処かに出掛ける予定あるかな ? 」 「予定かぁ。特にはないけど……どうしてって聞いていいかな ? 」 「もし、もし良かったら私と何処か出掛けようかな……なんて」 何云ってるの私、いつになく積極的だし。でも日下さんと出掛けたいと思ったのは本当の事。 クラスが離れてしまったから去年みたく一緒にいれる時間が少ないしもっと居たいと思うのは 間違っているのかなぁ……とそんな事をぼんやり考えていたら日下さんからさっきの答えが返ってきた。 「黄金週間は、道場が休みだから合気もないし何処か行こうか…… 詳しい話は、昼休み久々にお昼一緒に食べる時にでも話そうか、佐野さん」 その答えを聞いた私は思わず嬉しくなって日下さんの手を握って喜びをあらわにした。 手を握られた日下さんはというと……顔を赤くして下を向いてしまった。 日下さんの手を握った自分ですらトマトのように真っ赤になっていたりする。 並んで坐る 2 人が顔を赤くしているのは今迄の事情が分からない車内の人には滑稽だった。 まもなく自分達が降りる駅に着くという時に友佳は凛の手を離した。 残念、もう少し握っていたかったと思う自分も確かに存在する、でも人の目が気になるし。 駅に着いて並んで電車を降りて改札を抜け学校までの道のりを歩いている。 お互いの腕が触れ合う距離なのにこんなにドキドキしている。また顔が赤くなりそう。 もうじき学校に着く寸前、私は日下さんにお互いの呼び方の事を話してみた。 「ねえ、日下さん。知り合って半年だし『さん付け』でなく呼び捨てでお互い名前呼んでみる ? 」 「うん。私も実は呼び捨てで佐野さんの名前呼びたかったんだ。いいの嬉しいかも」 最後の方は尻窄みでよく聞こえなかったけれど日下さんは納得したみたい。 顔を見合わせて苦笑いする 2 人。 「今から呼び捨てで呼び合おうね」 「うん、判ったよ。友佳」 「ありがとう、凛」 2 人がより近づいた感じがする。でも心の中では、いつも凛の事呼び捨てだったのは内緒だけどね。 そんなこんなで学校に到着。下駄箱の所で靴から上履きに履き替える。 階段を上り其々の教室に入る時、名前を呼び合ってたのにいち早く気付いた友佳と同じクラスの阿部久美子。 「いつの間に凛のこと呼び捨てにしたの ? 」なんて友佳に去年と変わらないツッコミの科白を吐く久美子。 「さっきだよ。学校着く間際、これからは呼び捨てで呼ぼう」ってと段々小声になりながら答える友佳。 「お昼休み、もしかしたら阿部さんに ESS の部室の鍵を借りるかも……」という科白も聞こえてきた。 阿部さんと話していたら SHR の時間となり担任の三瓶 ( さんべ ) 先生が教室にやって来たので友佳は席に着いた。 気が付いたら 4 時間目まであっという間に授業が終わり今お昼休みの開始のチャイムが鳴り響いてた。 お弁当を持って教室を出たら、凛も此方に向かっていたのが見えたので私達は合流した。 「友佳、やっとお昼だね。今日はいつもより早く感じたよ……」と凛が照れながら云った。 「うん、私凛と早く一緒にお昼食べたかったから小走りしちゃった」と友佳が珍しくはしゃいでいた。 「何処で食べようか ? 友佳は場所決めているのかな ? 」決まっているのならと思って訊いてみた凛。 「天気良いし屋上なんていうのもいいよね。どうかな 凛 ? 」珍しく友佳からの提案だから凛は従うことにした。 そのまま 2 人は屋上に向かう階段を並んで駆け上りのんびりとお昼を食べた。 お弁当も食べ終わり、朝の登校時の黄金週間のお出掛け話を 2 人で相談した。 混むような場所は避けたいという 2 人の意見が一致して近くの森林公園に決まった。 『お弁当持ってピクニックなんていいねぇ……』と 2 人して同時に呟いていたりする。 「黄金週間のいつ頃出掛ける ? 4 月の終わり、それとも 5 月の連休 ? 凛の都合はどうなのかなぁ」と私は確認の意味も含めて凛にこう訊ねていた。 「 4 月の終わりにしようか ? ……で 5 月にまた遊びに行っても好いし」なんて答える凛。 2 人にとって何処かに出掛けるのが嬉しい訳だしとニヤ付く凛。 まったりした時間を過ごしていたらお昼休み終了まで 10 分となり片付けて屋上を後にする。 階段を下りてゆき、身だしなみなど 2 人は直す為、近くの化粧室に入った。 手を洗い、髪の毛を直して化粧室を出て、其々のクラスへ戻って行った。 凛と友佳は、残り 2 時間の授業を睡魔と闘いながらも乗り切り SHR ・ 掃除をして帰る時間となった。 今日は合気のない日だからと凛が云ってたので一緒に帰れる日。なんて贅沢なんだろうと微笑む友佳。 そのままとぼとぼと 2 人は歩きやがて校門をくぐった。隣に居れる幸せ。 凛本人は興味がないのか気付かない素振りをしていたが実は女子生徒から人気があったりする。 2 人で帰るときは特に羨望というか嫉妬の眼差しに晒されることはしょっちゅうだった。 そんな眼差しから友佳を守るように肩を抱く凛。手を繋ぐのですら時間の掛かった凛にしては勇気がいった行動だ。 友佳以外は目に入っていないかのように周りの視線を気にする事なくそのまま 2 人で学校から遠ざかる。 さすがに大胆だったと下を向いてしまい肩を抱いていた腕を放す凛。その行為を残念に思う友佳。 駅まで歩いていて、突然肩を抱いた事を謝る凛。やはり初めて逢った半年前の事を気にしているようだ。 幾ら誤解が解けたとはいえ初めて友佳を抱きしめてしまったドキドキを悟られたくはないのだ。 あの抱擁で友佳をより好きだと意識したのだから……この想いを口に出来たらと逡巡する凛。 2 人の間の気まずい空気が漂うのを打ち破ったのは友佳だった。 「肩に回されていた腕、私は嬉しかったからそのままで良かったのに何で退かしちゃうの ? 」 「半年前の事があるし、嫌かとずっと思ってたからなんだけど……」 えっ嬉しかったって今友佳から聞こえたけれどと夢ではない事を確かめる為に自分の頬を抓る。 そんなあたふたする凛の横で自分の云った大胆発言に朱に染めた顔をしている友佳。 そんなのんびりとした時間であったが駅に着いたので改札を潜って停車していた電車に乗り込む。 車中の人となった 2 人は空いていた座席に坐って話し始めた。 「実は、この前友佳と友達になったとママに云ったら是非今日連れて来いって きかなくてさ。だからこの後ウチに遊びに来ない ? 」 「今から伺ってご迷惑じゃないかな ? 行く前にお母さんに帰り遅くなる事家に電話していい ? 」 ……と友佳はカバンの中に仕舞ってあった携帯を取り出し家に掛けだした。 『もしもし、あっお母さん。友達の日下凛さんが家に遊びにおいでと云ってるからこれから行くね。 そうそう夕飯迄には帰るから心配しないで。んじゃねぇ……』と遅くなると心配する母に電話する友佳。 同意も得られたし、ではいざ我が家へ……とおちゃらけて云う凛。 そのまま今日あった事を話しながら凛の降りる駅まで話し続ける 2 人。 車内アナウンスが凛の最寄駅名を知らせたので 2 人は急いで電車から降りた。 改札をすり抜けそのまま閑静な住宅街を 10 分程トボトボと歩き家が見えてきた。 家に入る寸前、凛が私にこう切り出した。 「そうそう、友佳。ママのこと『唯さん』って呼んでくれるかな ?」 「それはいいけれど…何で ?」 「それはママ本人が『唯伯母様』って呼ばれるの嫌みたいでさ。だからお願い聞いてくれる ?」 「伯母様ってもしかして…」私は云い掛けた言葉を呑み込んだ。 「詳しい事は後で教えるからさ」と凛が私の耳元で囁いたから顔が赤く染まる。 家に入る前の事を凛から教わる友佳。 実は、友佳が小さい頃に凛の家に遊びに来た事があるのだが当の友佳は覚えていない。 「パパと友佳のお母さんの瑞樹さんとは兄妹でさ、だから私と友佳は『いとこ同士』なの。 ママと瑞樹さんは、高校生の時親友で、お互いの家を行き来するほど仲が良いって聞いててね。 ママが、パパに一目惚れしたから、 2 年後結婚し翌年に、私が誕生したと……」 へぇ、そんな事があったんだぁとぼんやりしてしまった。 何事もなかった様に、そのまま門扉を開けて家に入る凛と友佳。 「ただいま」 「お邪魔します、唯さん」 「お帰り凛。ようこそいらっしゃい、友佳ちゃん、お久し振りね」 家に入る前の言葉のやり取りを思い出していてたからその間に、凛と唯さんは台所に居て何やら話をしている。 「ママ、少ししたらお茶の用意しておいて。取りに来るからさ」 「うん。判ったわ。頃合いをみて取りに来てね」 凛に促された私は、階段を上る。凛と一緒に部屋に入る。 「友佳、お茶取りに下に行ってるから適当な処に坐ってて」 「うん、判った。凛階段で躓かないでね」 凛が階段を下りた途端ドキドキ、ドキドキと、自分の心臓の音が煩 い位に鳴り響く。 大好きな子の部屋に居るなんて……嘘みたい。部屋をぼんやりと眺める。 ベットの処に可愛らしい犬のぬいぐるみがいる。学校ではクールな凛のギャップがこういう処で垣間見れる。 部屋の主である凛が、私が開けてくれるのを待って扉の外側で聞き耳を立てていることすら気付かずにいた。 なかなか扉を開けてもらえず痺れを切らした凛がドアを軽く足蹴りして友佳が慌てて扉を開く。 「なかなか開けなくてごめんなさい、凛。」 「うん、平気だよ。只両手塞がってたから蹴っちゃってごめんね」 そのまま楽しく凛の部屋で過ごした 2 人だった。 この時、私が呟いた言葉を凛に聞かれていた事に驚くのだけれど……それはまた別のお話として。 階下で、私達は母親達の企みを知らされていなかった。 あれよあれよという間に、唯さんとお母さんで筋書きが出来ていたから。 黄金週間の時にお互いの家に泊まらせようとしているなんてそこまで勘のいい娘達ではなかったから。 昼休みのピクニックの話をしていたのがお流れになるとは……今となれば知る由もなかったし。 気付くと黄金週間になっててお互いの家を泊まりあるいた。お母さん達のイタズラだとしても感謝したい。 より一層 2 人の絆も深められたし、心の中も近づけた気がするから。 to be continued … | |||||||||
ブログで相互リンクさせていただいていたchibiさまより、chibiさまサイトのカウンターの「100」を踏んで リクエスト権を強引にむしりとりました『Love Attack 〜 恋の始まり 〜』の続編をいただきました\(^o^)/ ありがとうございます!
初々しい高校生の恋愛のその後。楽しく拝読いたしました。 続きの『Love Attack3』もあるそうです。 楽しみですね。 chibiさまの素敵サイトはこちら→『★』 ブラウザを閉じてお戻りください |