マヒロ 〜捜し求めて〜 確かに二人とももうかなり酔っては居たけれど汐のその艶っぽい唇から発せられた“同性なの”という言葉、マヒロははっきり覚えていた。 あの七夕の日、愚痴を聞いてもらいたくて汐をバーに呼び出してそこで思わず聞いた彼女の片想いの話。 どういう訳か気になってそのまま離れがたく自宅へ汐を誘ったのだった。 マヒロの誘導尋問作戦に半ば閉口したように明かされた汐の想う相手の話。 「意外だったけれど考えてみれば、あの汐だもの、、、 花形の地位にあって美形で才媛,あこがれる女性が周りに一人や二人いても不思議ではないよね。 マンネリ気味の営業事務の私とは違って忙しい身、ストレスも溜まるでしょうし、優しく尽くしてくれるような女性と恋人関係になっても解る気がする」 何となくだけど納得できてしまったマヒロだった。 しかし汐の相手が誰なのかは明らかにはされず、親友として彼女には何でも話してきたのに、と少し寂しさも感じたけれど彼女のために何とか応援出来ればという気持ちだった、本当にその時までは。 マヒロの気持ちに変化が起こったのはそれから数日後、 偶然、汐を見かけた時だった。退社時刻だった。 会社のビルの正面玄関へと向かう人の流れの中で彼女を認めたのだった。 あっ!と思い声をかけるため近付こうとした時、連れがいる事に気がついて思わず立ち止まった。遠目でもパッチリ目が判るようなきれいな女性だった。 まだ若い感じでタイトなスカートからの足のラインが美しい。 何だか嬉しそうに汐に話しかけている。 にこやかに応じている汐と連れ立って街の雑踏の中へと去っていった。 二人を見送るマヒロ、「あの人? 汐のお相手、、、。」 「美女美女カップルかぁ、そう言えば、彼女って企画部の、、、この間、 汐が話していた人かもしれないな。 “まだ入社して数年の若い子だけれど気配りができる子なの、それに彼女可愛い顔して結構がんばり屋さんなの。” 確かに汐を見ていた感じが眩しそうだった、楽しげに寄り添っていい雰囲気で、、、。しかし、汐のお相手にしては少し線が細いような感じもする。 なにしろ仕事もできるいい女だから、同じような優等生タイプもいいかもしれないけれど、なんて言うか、、、、少し位ドジな所があっても元気でストレートで思い込んだら一直線にって言う方が、例えば私の様な、、、」と考えを巡らしているうちに、、、ドキッとして突然の胸キュンに、、。 「え!!!*@#?%!!」驚くマヒロ。 顔まで赤くなってしまって、頭をブルンブルンと2~3回振り払ったのだった。まるで彼女自身に言い聞かせる様に。 「とにかく親友として汐を応援するのだから」 「でも片想いって、可能性ないって、どういう事だろう。あのカップルなら雰囲気から言って汐のほうが片想いされてる様な感じするし。しかし汐らしくないな、片想いなんて全然似合わないよ、そんなの。」 その日以来,頑張り屋さんの事とか、汐に会っていろいろ聞きたいと思っていたが彼女は新しいプロジェクトのための海外出張などで多忙を極めていたことも在り、しばらくは叶う筈もなかった。 マヒロはしかし汐に会う前に自分自身を深いところで見つめる必要があると感じていたのでむしろ考える時間を与えられた事は良かったのではと思えた。 マヒロは考えた。マヒロ自身についてこれ程考えた事は今までに無かった位。 「私って本当はどうしたいの?」 何が一番好きなの?嫌いなの?仕事の事、将来の事、夢、、、。 そしてこれまで生きて来た様々な事、彼女の周りの人々の事、、、。 そして汐の事も,,、会社で出逢って、気が合うっていうか親しくなってから悩みとかも受け止めてくれて励ましたり叱ってくれたりといつの間にかマヒロにとって特別な存在となっていた。 その才能と美貌に嫉妬したり憧れたりしていたけれどずっと特別な親友として付き合ってきたのだ。 「だからかもしれない、これまで何度か魅かれた男性と付き合ってもうまくいかなかったのは比べてしまっていたのかもね、あの汐と。」 マヒロは自分自身を知りたかった。 自分をもっと理解していればよりよい選択が出来たはずとこれまで思う所があったからだが、これからの彼女自身のためにもと。 汐の帰国は予定よりかなり遅れる様子だ。 マヒロはしかし汐と会う為のあるプランを考え始めていた。 そして二人の会話さえ想像していた。 (マヒロ)あのね、最近どこかで読んだのだけれど、自分は自分を幸せにする責任がある、という言葉が心に引っかかっているの。 汐もこの前言ってたよね、自分が一番自分を大切にして愛してあげる事って。それでね、片想いの話になるけど、可能性ゼロの片想いってあんまりだよね、自分が可哀そうだよ。だから、う~ん、私なら新しい恋の可能性を探し始める方がよいと思うけどね。どう?汐なら周りに憧れている人達2〜3人位いるでしょう? その中から貴方好みの人を選んで、、、。 (汐)ふふ、、そのうちの一人がマヒロだったりして、、。 (マヒロ)ええっ!!! (汐)もう!そこで固まらないでよ! (マヒロ)ん?あっ、そうそう、この前聞いたけど、あのがんばり屋さん?ってどうなの? 「、、、なんていう感じでいくかどうか、、。」 小さなため息をつくマヒロだった。 結局汐が帰国したのは翌年になり落ち着いたところでと思ってはいたもののお互いのタイミングもあって実際に会う約束が出来たのはさらに随分後になっての事だった。 マヒロは迷っていた。 彼女なりに考えて自分がどうしたいのかを自覚した後でも。 しかしマヒロがマヒロで在るためにと考え決めた事、そう、 自分の気持ちに正直に、、、。 汐の待つバーに向かうマヒロ。 あの日からちょうど一年後の七夕の日の今日、彼女への想いを胸に。 |