汐の想い 一年ぶりの再会だった。 行きつけのバーで待ち合わせた二人。 再会を祝しての乾杯の後、この一年の間のお互いの体験話などがあって 和やかになった頃、マヒロが切り出したのは汐にとって思いがけない話だった。 何となくいつもの彼女とはちょっと違った感じがする、と思ってはいたけれど、あんなに真面目な顔のマヒロを見るのは久しくなかった事、 彼女の一途な表情は昔、、、、もう10年以上も前になるが入社して間もなく出会った頃の印象を汐に思い出させた。 真っ直ぐに見つめる瞳と少しはにかみながらの笑顔が光っていた。 マヒロの話はどうやら新しい恋物語?のような感じだった。 汐は長年の付き合いからその雰囲気を察して、聞き役の体制に入りかけていたのだが、、、 まさかの彼女からの告白だった。 当惑を隠せなかった。 「マヒロ、、、、、」 沈黙を避けるようにマヒロは続けた。 「汐の片想いは聞いているけれど、可能性がない片想いってことは、もしかしたら私にも可能性あるかなと思って、言うだけ言ってみる、そう決めたから、、、、、」 美形の汐だからこれまでに告白された体験は少なくはなかった、とはいえ、親しくしていた人からの突然のタイミングでどう反応したらよいかと少しためらい、言葉を選んでいると、 「あ、汐に断られる覚悟はしてるけど、、、でも少しでも可能性あるのなら考えて欲しいし、、、」 返事は今でなくても、と言うマヒロの様子を見据えて 本気なのかもしれない、と汐は思った。 「真面目に告白されたから、真面目に返事させてもらうつもりだから、、、」 と答える汐にうなずくマヒロ。 七夕の夜のマヒロとの再会は汐にとって予想外の展開となっていった。 それから数日後、マヒロ宛てに書かれた汐の手紙が送信された。 『先日は有難う。 久しぶりに会えて楽しかったです。 貴方の告白は正直、驚いたけど、嬉しかったのも本当です。 これまでストレート(異性愛)な人、とばかり思っていたので意外でした。 ただ初めてあった頃、私の世界の人のように貴方の視線を感じた事があった のは覚えていますが。 だから、なんだか昔の貴方を見ているように感じていました。 出会った頃の貴方はその円らな瞳と笑顔が可愛い人という印象でした。 貴方を好きになるのに時間はかからなかった。 そしてごく自然に親しくなって以来、気の置けない友達として私にとって大切な存在になっているのも間違いないです。 一年ぶりに会った貴方は少し大人びた感じがして何か新鮮でした。 貴方の告白は本気を感じさせたから私も真面目に考える気になったの。 貴方が言った、可能性のない相手より新しい恋探し、 確かにやってみる価値はありそうね。 私が望む相手は、 ○自分で自分の責任を取れる人。 ○心が豊かで人にプラスのエネルギーを与えられる人。 ○そして肝心の情熱と覚悟。 マヒロの場合、問題ありそうなのは、 これまで熱しやすく冷めやすいタイプという印象だったからどこまで続くのかどうか、その点ちょっと、と思うけれど。 恋愛に限らず、今まで貴方を見てきて何度か思ったのは少し自分を過小評価するところがあるように思うの。 そのせいか、自分のために長所をもっと活かしてアピールする、という努力にも消極的になって、結局、自分を発揮できず、、、というケースもあったよね。 ただ先日の貴方はこれまでとは何か違うように感じさせたの。 私に告白する決心をし、そして告白できたのを見て、 これまでには無かった様な本気を感じさせたので期待出来るかもしれない。 後の覚悟だけど、 貴方の気持ちの中での覚悟はあの日に判ったけれどそれだけでなく 周りの人たちの事や、将来、同性である事から生じるかもしれない種々な事に対してマイナーな意識を持たない、という事。 覚悟っていう意味はあきらめる事、他のことを。 腹を括る、という言葉があるけれどそういう事です。 私は同性でないとだめだと自覚した時以来、その事で悩んだり迷ったりした事はなかったの。きっと普通よりそのあたり?の神経が鈍感なのかもしれない。 だけど好き嫌いは生来のものでどうしようもないし、何かの為に不本意の選択をする必要も今まで感じなかった人なの。 だから早くから自分の中である程度の覚悟はつけていたと思う。 将来を考え、自立のために進路を決めてきた。 私はもう覚悟の必要はないけれど、 マヒロの場合は微妙。 多分まだ免疫もできていないような状態だと思うので 将来、悩む心配がある。 でも、トータルにパートナーとしてマヒロを考えてみると、、、、、悪くない。 付き合ってもいいかな、という気持ちは否定しなかった。 ただ、、、、、、 マヒロのことをいろいろ考えると貴方を簡単には選べないと思った。 男と恋愛できるのなら、普通に結婚した方がいい、と思う。 男も女もというのは私はだめ、ややこしくていけない。 正直、私の気持ちの中でのマヒロは親友であって欲しいというのがある。 そしてまだ自分の心の中を整理する必要も感じたの。 マヒロと私、二人にとっての幸せとか考えました。 今、言えるのは、 貴方の気持ちに応える事はできないだろうという事です。 御免なさい。 でも親友である事は変わって欲しくないと望んでいます。 貴方に喜んでもらえるような返事なら良かったけれど、 マヒロなら分かってくれると思って今の私の気持ちをそのまま書きました。 マヒロはもてる方だから大丈夫、もっといい人が案外早く見つかると思う。 多分、後で良かったと思うようになるのでは、きっと、、、。』 汐はマヒロへの返事の後しばらくして彼女からの返信を得た。 『お返事有難う。 こちらこそお話できて嬉しかったです。 汐を驚かせてしまって御免なさい。 ある程度予想はしていたし私は大丈夫です。 本当を言うとね、もっとあっさり断られるのかと思っていたの。 もちろん汐がもういいというまで親友を辞めるつもりはありませんから、 今後もよろしくお願いします。 私、汐のように冷静に自分を分析できる判断力ないから自分の想いにも 鈍感に過ごしてきたと思う。 ただね、今回自分なりに考えて気が付いた事があるの。 汐ほどもてないからだろうけど他人から想われる感性には結構 敏感な方だっていう事。 想われると感じて意識してしまうのだと思う。 汐に出会ったころ感じた気持ち、今は確信していると言えます。 最初から汐しかいなかった。 いつも側で見守っていてくれて意見してくれて、、、で自覚したの。 でも自信はなかった、勘違いは得意だから。 私が聞きたかった汐の想いは叶わなかったけれど、 私の想いを聞いてくれただけでも嬉しかったです。 又失恋の癒しを親友、汐に頼まなければいけないのは複雑だけれど、、、。 とりあえず真面目にお返事してくれてお礼を言います、有難う。』 マヒロからの返信を受け取った翌日の朝、 再び彼女に向けて汐が送ったのは新しいメッセージだった。 『マヒロへ。 返信受け取りました。 自分を理解するって易しくない事ね。 人の事は言えないな、って思った。 告白されて驚いたのは動揺する自分の気持ちでした。 心の中を整理してみて解ったの、私の想いに。 貴方に話した片想いの相手の人、昔の彼女だったその人は もう思い出になっていました。 そして貴方の存在にも気付いていました。 多分、始めて会った時からだと思う。 ただストレートな人に振り回されるのはいやで無意識のうちに無視しようとしてきたのかもしれない。 貴方の気持ちに応えられない、と断ったのは貴方の幸せを考えて その方が貴方のためだと思ったから。 でも少しは貴方を試したい気持ちもなかったとはいえないけれどね。 私は貴方と自分の幸せも考えた上で返事をしたつもりでした。 でも貴方の返信を読んで考えました。 幸せって何? 幸せって、自分が幸せだと感じる事、だよね? 幸せって、他人が決めることではないのよね。 何が貴方の幸せかは貴方が感じる事。 マヒロが私との幸せを感じるなら、 二人で幸せになろう。 貴方をもう親友と呼べなくなるのは残念な気もするけど、 これからは恋人として宜しくね、、、、、、、汐。』 end |