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 手を繋ごう
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手を繋ごう 中編

:微妙な表現が含まれています)

 マキが恋人と別れたと聞いた時、とうの昔に上手くいかなくて付き合っていた相手と別れていた私はマキに自分の気持ちを告白した。
 もう友達ではいられないほどに思いつめていたので駄目なら駄目であたって砕けようと思って。
 マキは少しびっくりした顔をした後、嬉しそうにふんわりと笑って、
 「ミカのこと、そういうふうに考えた事ないけど、好きって言われて嬉しい……」
 否定でも肯定でもない返事。
 「ミカがやじゃなければ少し付き合ってみる??」
 でもそれは、私が望む事ではない。ただ付き合うのであれば、今までの友達同士の付き合いとは変わらない。
 「マキ、私の言う付き合いはそういう事じゃないよ。私とキスとかできる??」
 「ううん、ミカとだったら出来るかも」
 ちょっと考えるようにしてマキが言う。
 「試してみようか?」
 その無邪気ともいえる誘いに私は眩暈がした。それでも、身体は正直で咄嗟にマキを引き寄せて唇を重ねる。
 男の人のそれとは違って、柔らかな吸い付くような唇だった。考えてみればビアン寄りといっても、女の子と付き合うのは初めてだった。今まで好きになった子はみんなノーマルで告白した事さえなかったから。
 私が押し付けるだけの拙いキスで感動していると、マキはうっすらとその唇を開いて温かな舌先で私の唇を舐めた。
 その生暖かな感触に、私の理性があっけなく崩壊する。目の前が真っ白になり、沸きあがる熱いものに眩暈がする。まるでゲームのように面白そうにキスするマキに半ば殺意すら覚えて、自分の舌でマキの唇の中に侵入した。その湿った温かな口腔に甘さすら感じて舌を絡めて吸い上げる。
 まるで初めてキスするみたいに全身がドキドキしてしまう。マキの鼻から抜ける甘やかな声に身体の中心が熱くなる。私は獣のようにマキの唇を貪った。
 ため息のような吐息を吐いたあと、上気した頬と赤く色づいた唇を眺めながら私は軋むような心の痛みを吐き出してマキにぶつけた。
 「付き合うって言うのはキスだけじゃない、セックスとかそういうことをするのよ。そんなに簡単に付き合うって言わないで」
 私を好きでもないのに、付き合うって言わないで……。
 マキは潤んだ目を瞠ったあと、節目がちになって、小さな声で呟いた。
 「えっちなんて簡単よ。キスより簡単。お互いに気持ち良くしてあげればすぐに濡れてたくさん欲しくなる」
 「――マキ!?」
 「私は、ミカが思っているような綺麗な人間じゃない。えっちな事は好きだし、大好きな人とはいつもべたべたしていたいの。えっちもミカが思っている以上にたくさんの人としてるもの」
 何を言われてるのか判らなくて、呼吸が止まる。
 「好きな人とじゃなくてもえっちはしてるの。でもキスはやっぱり好きな人とじゃなければ出来ない……」
 たくさんの人と、えっちしてるって。それって。
 「どういうこと??」
 「どういう事って、言葉通りよ。ミカは私が好きなんじゃない、ミカの理想を私と重ねてるだけなのよ」
 「――マキ……」
 確かにマキが私の思うとおりの人間ではなかったことにショックを受けた。でも、マキを理想化して好きだったわけじゃない。
 「マキは私の前でずっと演技してたってこと??」
 ふるふるとマキが首を振ると柔らかなマキの髪がふんわりと舞った。その髪が柔らかで艶やかなのを私の手は知っている。
 「違うんだったら、やっぱり私がマキを理想化してたとは言えない。そりゃあ、全てを知ってるわけじゃない。でも恋愛って全てを知ってから始めることじゃないでしょう?? マキの笑い方とか怒り方とか喜び方とか悲しみ方とか、そういうのを見てきて全部好きだと思った。それじゃあ好きだって告げる資格はない?」
 「だって、私……」
 「私は確かにセックスとかは好きじゃない方だし、べたべたするのもあまり好きじゃないけど。でも、マキとだったらもっとべたべたしたいし、その、セックスも多分好きになると思う。それじゃ駄目なの?」
 前に付き合ってたのは男性で、会う度のセックスが辛くて、マキへの思いが強すぎて、別れるしかなかった。いえ、別れたかった。別れられてホッとしている。付き合うということがあまりにも苦痛だったから。
 「駄目じゃないわ。でも、こんな私を好きで居続けられるの??」
 顔を上げたマキはやっぱりたまらなく可愛らしくて今の会話に違和感を覚えてしまうほどだった。
 「問題はそうじゃないでしょう?? マキが私を好きかどうか。今は愛せなくても少しは愛せるようになるかどうかでしょ?? 私にとってはどんなマキでもマキはマキなの」
 「ミカ……」
 俯いて肩を震わすマキの身体を私は思わず抱きしめていた。柔らかでいい匂いのその身体に甘酸っぱい何かが心から溢れてくるようだった。自分自身のどうしようもなさに目頭が熱くなる。
 「ごめん。……これは私の気持ちの押し付けだったよね。マキを苦しめるつもりはなかった。マキが許してくれるなら、友達に戻ろ」
 私の精一杯の強がりにマキがびっくりしたように身じろいで顔を上げて私を見つめた。
 「私の事嫌いになった??」
 私は思わず笑ってしまった。
 「そういうことじゃない。好きだけどマキを苦しめたくないから……」
 私の言葉に何故かマキは嬉しそうにふんわりと笑った。



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