- ■ キ ス
(注:微妙な表現が含まれています)
出張から帰って来て、食事を終えると、疲れているんだからとお風呂をたててくれて、ゆっくりつかるように進められた。
食後に少し休んで湯船につかる。
温かなお湯に疲れが流れ出し吸い取られるようだった。身体がやわやわとほぐれていく。
「ね、背中流そうか??」
食器を洗っていたのかエプロン姿の彼女が静かにバスルームの扉から首を出した。
「頭も洗ってあげる」
ニコニコと満面の笑顔で彼女は入ってくる。
「じゃ、一緒に入らない?」
私が誘うと、ほんのりと顔を赤らめてふるふると首を振った。そして、
「私はさっきシャワー浴びたし。……一緒に入ったらそれだけじゃ済まなくなっちゃう。あなたが疲れてるのに」
それに明日もあるし、と彼女は唇を尖らせて呟いた。
そうだ、明日は旅行なのだ。一泊だけど。せっかくの旅行だから寝坊はしたくない。
彼女の言葉に納得して湯船から上がると椅子に座って背中を向けた。
少し強い力で背中を擦られたり二の腕をマッサージされるように丁寧に洗われてとても気持ちが良くなる。
頭皮を指先でもむように頭を洗われるとどっと疲れが出たのかぐらぐらするほどの気持ちの良さで猛烈な眠気に襲われた。
ふと気付くと脱衣所で身体の水分を丁寧に拭き取られ、身体にバスタオルを掛けられて髪をドライヤーで髪を乾かされていた。
「――あ、ごめん」
謝ると、
「よっぽど疲れてたのね。いくら起こしても起きなかったから……」
鈴が鳴るような声で彼女が笑った。
疲れていても気が張っている時は絶対に眠くならない。
彼女がいるから。
彼女に触られているから。
彼女と一緒だから。
私は安らいで本来の自分に戻る。
急いでパジャマに着替えると彼女の手を取って寝室のベッドへ引っ張り込んだ。
エプロンをしたまま彼女がベッドに転がる。
私は覆いかぶさるように柔らかな身体に自分の身体を重ねると何度もキスをした。
目蓋に、耳たぶに、頬に、勿論唇に。
彼女はくすぐったそうに笑いながら身を捩る。それでも手早くエプロンを外した彼女は温かな腕を私の首に回してしがみつくように唇を重ねてきた。その腕からは先ほどの石鹸の匂いがした。その中から仄かに香る彼女の体臭に胸が甘く疼く。そこから熱い何かが迸る。
でも、そう、それよりも、今は全身で彼女を抱き締めて彼女の脈打つ生命を感じていたい。
お互いについばむようなキスを何度もし合って、私達はじゃれるように抱きしめあいながら眠りに落ちていった。眩暈がするほどの幸福感の中。