密やかな吐息 弐
○ 眼鏡 ○
姫野
ひっつめた三つ編みお下げを解くと緩く巻いた色素が薄い柔らかな髪が現れる。
スタイルも良く胸は憧れの巨乳と言ってもいいほど。
中学時代は女神のように崇め奉られ熱狂的にもてた。
ほぼ完璧。それが彼女だ。
でももちろん完璧な人間はいない。
そう、彼女は重度の男嫌いだった。
彼女の過去を知るものを寄せつけないように彼女は男女別学のこの超難関私立高を受け、伊達眼鏡をかけ、髪を三つ編みにひっつめて変身を遂げたのだ。
目立たないようにが彼女のモットーとなったがやはり光る才覚で二年に進級した際に級長を押し付けられてしまっていた。
凛は毎朝幼馴染だという男子部の生徒と一緒に登校してくる。皆はその男子と凛が付き合っていると思っているが、それは事実ではない。男嫌いの凛にとっては特別な存在の男子であっても、恋愛感情で好きというわけでない。二者間に恋愛感情はあるがそれはもう長い事ずっと一方通行だった。
一番身近で見ていたからその変化が手に取るように判った。
凛は恋をしている。
少年が指摘をすると凛は眼鏡の奥の美しい目を眇めて、強く否定した。
「私は男嫌いだけど、だからって女の子が好きなわけじゃないわ」
それでもその新たな感情に名を付けかねているのが彼には判りすぎるくらいだった。それ程に彼女を見つめ続けてきたから。
直接相手に触れることはないが、常に目が追いその人の事ばかり考えてしまう。
それは恋だと再び指摘する。
「判らないけど、この気持ちをそんな俗な言葉で一括りにして欲しくない」
勝気な少女が頬を紅潮させて更に強く否定する。
もちろん彼は凛には勝てないのだ。嫌われたくないし、できれば振り向いて欲しい。幼馴染という特殊なスタンスにいるからこそ近づかせてもらえている事はわかり過ぎるくらい判っていた。
すべての気持ちに名前をつける必要はない。
きっと名もない想いもあるのだ。
切ないようなでも暖かで優しい気持ちになる、愛でも恋でもない、その気持ち。