夢の中 1
生まれて初めて恐怖を感じた。
全身を震わせるほどの目の前が真っ暗になる恐怖にいつまでもそこで蹲っているしかなかった。
サヤには恋人がいる。
片時も離れていたくなくて、いられなくて、同棲をはじめて5年になる。
今でも苦しいくらい好きで好きで仕方がなくて、その気持ちをどこに持って行っていいか、困ってしまうことがよくある。
こんなに人を好きになったのは初めてで、だから、いつも心が痛いほど相手へ思いつめてしまうのかも知れない。
身動きが取れなくて苦しくて苦しくて両思いでも切ないのだとサヤは初めて知った。
相手と同じ重さで相手を好きになることなど不可能なのだ。
自分だけがとても重い片思いのような恋をしているのだ。
雨上がりの晴れ渡った青い空をマンションのベランダから眺めていると、仄かにコーヒーの匂いを漂わせてふわりと恋人が後ろから抱きしめてくる。
サヤはその抱擁の温かさに嬉しくてめまいを覚えた。
「どうしたの?」
耳元の囁くような声音に、身体が自然と喜びで震えてしまう。
何度恋すればいいのだろう。
何度同じ相手に恋すればこの激情は去って穏やかに愛し合えるのだろう。
何度も何度も同じ人間に恋に落ちる。
その絶望的な喜びに彼女は目を閉じて、火傷しそうに高揚した身体を背後の恋人に預けた。
「虹が出ているの」
「どこに??」
それはサヤの心の中に。
「あなたといるといつも虹を一緒に見上げているような気持ちになるから……」
瞳を輝かせて、二人で一緒に見上げていたい。
ずっと。
同じ、美しいものすべてを――。