夢の中 3
毎日一緒のベッドで寝て、休日は一日中一緒に過ごす。
それでも離れている時間は引き裂かれるように辛い。
一秒でも離れていたくない。
どうしてこんな気持ちになるのだろう。
怖いくらい幸せなのに。
気が遠くなるほど幸福なのに。
サヤの苦悩は続く。
最近サヤの様子がおかしい。
恋人の異変に敏感になったカズハの胸に疑惑が浮かぶ。
それは時々浮かんできてはカズハを苦しめる、普段は沈んでて姿を現さない不安な気持ちだった。
はじめから覚悟していた。
この恋を貫くには気が遠くなって血の気を失うほどさまざまな障害があると言うことを。
それでも、カズハはサヤと共に居たいと望んだ。
サヤも同じように自分を望んでくれた。
湧き上がる不安を打ち消すように柔らかで温かで華奢なサヤを抱き寄せた。
ふんわりと漂うサヤの仄かな香りが鼻腔をくすぐるだけで心がほんわりと温かくなる。
こんな風に自分もサヤにとって温かな気持ちになるような存在になれているのだろうか。
最近のサヤは沈んでいることが多い。
それでも抱き合う熱は以前と変わらず、いや、以前よりも情熱的なほどで、サヤの心変わりではないらしいと推測できるけれど、それでは何がサヤを苦しめているのだろう。
出来ることならば愛する人の苦しみを取り除いてあげたい。自分が愛する人を幸せにしてあげたい。
映画館の暗がりで手を繋ぐのと、遊園地のお化け屋敷で手を繋ぐのと、電気の落とされた寝室で指を絡めあうのと、どれが一番好きかと言えば答えは決まっている。
それでもこの手を生涯離すつもりはないから、明るい日差しの中一緒に美しいものを見て、美味しいものを食べて、たくさん笑って、たくさん悩んで、全部を二人でわかちあって、ずっとずっと一緒に歩いて行きたいのだ。
そんな真剣な話をサヤは嫌がらないだろうか。
二人の温度差はどれくらいなのだろう。
自分ばかりがこんなにもサヤを求めて知らずサヤの重荷になっているのではなかろうか。
だからカズハはサヤが苦しくないように言葉を飲み込んで、誰にも寄りかからないように一人で立つ努力をしている。
それでも、サヤに触れる指先からあっけなく溶けてしまいそうになる。
「サーヤ、……愛しているよ」
無邪気な顔で眠る恋人にそっと口付けの雨を降らせる。
今、この幸福な瞬間が、永遠に続けばいいのに――。
永遠なものなど何一つないと知っていても、なお願わずにはいられなかった。