夢の中 2
真夜中に目を覚ました時、サヤは自分が恐怖に震えているのが判った。
渦巻く暗黒に落ちていくような恐怖に叫び声を上げながら彼女は目覚めた。
だが、背中に当たる恋人のじんわりと伝わってくるぬくもりに気付くとサヤは長い長い息を吐き、徐々に落ち着きを取り戻すことが出来た。
あれは現実じゃなくて夢で、今が現実なのだと。
今が、現実なのだと。
「…サーヤ?」
眠そうな恋人の声がそれでも冷え切ったサヤの心に温かに浸透する。
愛し合うだけじゃなくて、ただ誰かが傍にいてくれることが、それが誰よりも愛しい恋人だと言うことがこんなにも嬉しいものだと、この恋を知るまで知らなかった。
毎日、それこそ日に何度も、どんどん好きになっていくこんな際限の無い怖いような恋をサヤは知らなかった。
激情に流されて震えながらそれでもなお小さなサヤは恋人にしっかりと捕まった手を離す事は無かった。
離したらきっと生きていけないことを本能で知っていたのかもしれない。
「……眠れない?」
背後から震えるサヤの身体をふんわりと抱きしめてくれる。
「大丈夫、…ちょっと怖い夢を見たの……」
「――私がついてるよ」
少しだけ力のこもった抱擁に、サヤは目頭が熱くなった。
こんなに好きなのは自分だけなのだ。
焦がれると言うのはこういうことなんだと実感しながら、そっと目を閉じて抱きしめてくれる恋人の手に自分の手を重ねた。
温かな生きている手。それは愛おしい人の。
この至福の絶頂に未来の影に怯えるのは正しい生き方ではない。
今は、今の幸福だけを噛み締めよう、と。
「ありがと……、ダイスキ……」
気持ちのすべてではないけれど、すべてを告げたら重すぎて恋人は逃げてしまうかもしれないから。
それでもサヤの胸からこぼれ出るのは抑えきれない想いのかけら。
サヤの愛の言葉は重過ぎる。
情熱的過ぎない恋人にはきっと重過ぎる言葉だ。
だからサヤは黙って唇を噛み締める。
水が高いところから低い方へと流れ込むように、温かな手と手の触れ合うそこからサヤの愛がどんどん恋人へ流れ込んで行くような錯覚に、畏れと眩暈を覚えながら――。