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 追憶・告白

 【 追 憶 】  〜教室の窓際で〜   〜校庭の片隅で〜  
〜保健室で〜     〜白い壁の部屋で〜
 【 告 白 】 追憶その後1   追憶その後2   追憶その後3


追憶  〜教室の窓際で〜

 ふと、いつもそこで目を止めてしまう。
 窓際の前から三番目の空いている席。
 そこにはかつて一人の少女が座っていた。
 そして、私はその少女が大好きだった。


 授業中、黒板を書き取らせている間に生徒達を見回す。
 一人だけぼんやりと窓の外を眺めている女生徒が居た。
 そうじゃない。
 窓の外では無くて空いているその席を私と同じように見ているのだ。廊下側の席から窓際の席を見ると、自然と窓の外を眺めているように見えてしまうものだ。
 私はため息をつくと、机の間をぬって傍に寄り、ゆるく丸めた教科書でぼんやりとしている女生徒の頭を軽く小突いた。
 彼女ははっと弾かれたように私を見る。
 私はただ、ゆるゆると首を振ると、人差し指でとんとんとノートを叩いた。
 女生徒はばつの悪そうな表情を浮かべて慌てたようにノートにペンを走らせる。
 私は彼女の傍らに立ったまま窓際のその席へ視線を投げかけた。
 もし、あの少女がそこに座っていたら、ゆるく巻いたクセのある長い髪と丸くて白い頬のライン、小さな耳、華奢な肩、そこからはそんなものしか見えなかっただろう。
 それでもふと視線を上げると彼女が少女を優しいような切ないような眼差しで眺めているのをごく頻繁に目にした。
 それほどまでに私もまた、あの少女を見ていたのだ。


 放課後、教室に忘れてしまったハンカチを取りに戻ると、窓際の前から三番目のその席に、人影があった。
 急に心拍数が上がった胸を手で押さえ、小走りになって教室へ飛び込むと、人影はびっくりしたように飛び上がって、席を立った。
 驚愕の表情のまま振り返るのは、少女ではない。
 「ご、ごめんなさい」
 女生徒は泣きそうな顔で頭を下げてふっくらとした下唇を噛んだ。
 その手には私の忘れたハンカチが握られていて、それを握った手は机の上でかすかに震えていた。
 ああ、と思う。
 「ありがとう」
 私が言うと女生徒はハンカチを握り締めたまま私に飛びついて来た。
 彼女が身を捩って声を上げて泣く。
 彼女の流す涙は私の涙だ。
 どうしてなんだろう。
 私達は心の中のもっとも大切なものを不意に奪われてしまったのだ。
 まるで嵐に散らされる花びらのように儚く、その生命は失われてしまった。
 「泣かないで……」
 私は震える肩を抱き締めて、ほのかにシャンプーの香りのする彼女の頭に頬を寄せた。
 「またいつかきっと会えるから。だから泣かないで……」
 まるで自分に言い聞かせるように私は彼女に囁いた。



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