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 愛してる気持ちはいつも変わらない

【 大好きな気持ちはいつも変わらない 】
 大好きな気持ちはいつも変わらない
 【 大切な気持ちはいつも変わらない 】
 前編   中編   後編
【 愛している気持ちはいつも変わらない 】
  前編    後編
【 湖のほとりで君の夢を見る  】
  湖のほとりで君の夢を見る
 【 母の肖像 】
       


愛してる気持ちはいつも変わらない 前編


 凍えてしまいそうだ、と思った。
 息を吸う度に胸を刺す冷気に、長い長いため息は白くきらきらと宙に散る。
 いっそ、このまま凍りついて何も感じない人形になってしまえたらどんなにいいだろう。
 きらびやかで賑やかで華やかな眩いほどのクリスマスの電飾に眩暈がするほどに幻惑されて、私はゆっくりと目を閉じた。



 本社の花形部署と呼ばれる総合企画室から一営業本部の営業事務に飛ばされた私は慢性化した人手不足もあって毎日残業して何とか日々を乗り切っていた。
 それは私がもっとも嫌うライフスタイルの一つだった。
 ルーチンワークは大切だと判っているし誰にでも出来る仕事が不満なわけでもない。それでも仕事一色に塗りつぶされた人生はまるで誰か他の人の人生を借りてきてそのレールの上を走っているような違和感を感じるのだ。仕事は嫌いじゃない。むしろ好き。でも、ただ仕事を機械的にこなして日々を乗り切る生活の味気なさ。楽しい事も嬉しい事も何もない、昨日と同じ今日。今日と同じ明日。そのぞっとするほどの単調さになんとなく私は転職を考え始めていた。
 けれど、では、私は一体何をしたいんだろう。
 明確な意思がなければ結局はどこかで事務の仕事をして単調なルーチンワークに追われることは明々白々だ。自分にしかできない何か、それを求めて望むほど私は自分を特別だとは思っていない。私の出来る事は誰にでも出来るのだ。そんな思考の迷路に陥って結局私はズルズルと仕事を続けていた。



 色づいた街路樹の葉がすっかりと落ち、肌を刺すような冷たい北風が吹く季節になると街中はクリスマスのイルミネーションで急に華やかになる。
 学生時代付き合っていた相手とは就職してから生活サイクルが合わずに卒業後1年と持たずに別れてしまった。あれから6年。そう言えば特定の相手は出来なかった。そして今年も寂しい年末年始なんだと思うと周囲の浮かれた雰囲気にのまれて余計に痛いほどの孤独を感じる。
 それは多分、自分の本当の気持ちに気付いてしまったから。
 いつからとは明確に判らない。
 けれども私は大分前から親友だと思っていた元同期の美奈子を愛していたらしい。自分にそちらの趣味があるとは思っても見なかった。それでもこの気持ちは恋以外の何者でもないと確信がある。苦しくて切なくて無性に泣きたくなるそんな日々を過ごしているのに、これが恋じゃなければ何が恋なんだろう。そう思うから。
 クリスマス・イヴの夜。
 次々と定時で上がる同僚をよそに私はもくもくといつものように仕事をしていた。最近は大体9時上がりで軽く食事をして家に帰るのが10時半頃。それからお風呂に入って少しぼんやりしているとあっという間に日付が変わってしまう。朝は早めの出勤だからそのままのそのそとベッドに転がって目を閉じる。それでも寝付くのは何時間も後。閉じた目の裏に思い人の笑顔や照れたような綺麗な貌が浮かんで息苦しくなって胸が悲鳴をあげるから。
 機械的に仕事を片付けながら頭はぼんやりと違う事を考えていた。
 ふと気付いた時には営業所にはもう誰も残っていなくて、時刻は7時を回っていた。
 適齢期の人間はとても面倒でこういう日付に残って仕事をしていると相手がいないと思われるため、たとえ用事がなくても早く帰るのが通例化している。
「あれ〜、うららちゃん、今日も残業?? いいの? こんな日に残業してて」
 全員帰ったと思ってたら外回りから遅れて帰って来た主任が煙草をぷかぷかさせて声をかけて来た。
「はい、ちょっと仕事が終わらないから、もう少しだけ残業していきます」
「へえぇ。もしかして今フリー?? だったら俺とデートしない?」
 困った人に見つかってしまった。私は慌てて首を振った。
「いえ、フリーなんじゃなくて待ち合わせが8時半なんです。だから時間調整もかねて溜まってる仕事を片付けちゃおうと思って……」
 全部嘘。でたらめ。でも、そうでも言わないとこの人は引き下がらないから。異動してからずっと、この主任に何かにつけて言い寄られている。それが苦痛で転職を考える一因にもなっているわけで。
「そっかー、そりゃ残念。
 俺はいつでもフリーだからさ〜、うららちゃんが寂しい時はいつでも声かけてね〜」
 いつものように明るく言いながら上着を持って主任が帰って行った。
 いい人なんだけど……。私に言い寄らなければすっごくいい人なんだけど……。
 自分の仕事や気持ちに精一杯の私には望まない好意はとても重い。重すぎる。相手の気持ちを慮る余裕が無いから近づいて欲しくない。きっと、不用意に傷つけてしまう。だから。
 そうやって一人物思いに沈んで仕事をこなし、どれくらい経ったのだろう。トランス状態に陥ったみたいに私はいつしかぼーっとしていた。
 ふわり、と甘い匂いが鼻をくすぐった。
 それから背後から温かな気配。
 背中に当たる柔らかな感触に私は咄嗟に身体を硬くした。
 びっくりしすぎて呼吸を忘れる。
「メリークリスマス!」
 機械仕掛けの人形のようにぎぎぎぎと音でもしそうなほどぎこちなく振り返るとそこにはとても綺麗な柔らかい笑みを浮かべた美奈子がふわりと私を後ろから抱き締めていた。


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