一緒に暮らそう 前編
一緒に暮らそうといわれた。
だからそれは出来ないと断った。
多分、即答した。その時の記憶は少し曖昧だ。
それほど、私は彼女の言葉に衝撃を受けていた。
「私は、その、私は自宅から通おうと、思ってるし……」
私達の進学する大学は違う。
彼女は宗教系の女子大、私は国立大の理系だ。
「だって、通うの大変じゃない?? 少なくとも1時間半はかかるでしょ、片道」
彼女は柔らかそうな唇を少し尖らせて、拗ねたような表情をした。
「ん、乗り継ぎ悪かったら2時間はかかるかな」
「だったら……」
私の気持ちは揺らめく。
こんな誘惑は今現在心の弱っている自分にはかなり辛い。
卒業して別の大学に進めば殆ど私達は会うことがなくなるだろう。
今までは毎日会って土日の休日も許される限り二人で一緒だった。
自分達の家族にまるで恋人同士みたいだと冷やかされる位べったりだった。
でも――。
彼女は私の欲望を知らないから無邪気に誘ってくれるのだ。
だからその甘美な申し出を私は断らなければならない。
二人の友情を美しい思い出で終わらせる為にも。
告げたいけれど、告げられない言葉を飲み込んで私はただただ首を振った。
一緒に暮らすのはいい手だと思ったのに……。
「振られちゃった」
声にすると涙がこぼれた。
今までのようにどこか特別で濃密な関係は卒業と共に霧散してしまう。
それを繋ぎとめようと一生懸命考たのに。
家を離れて暮らすことも親友のあなたと一緒だったらと言う事で両親も納得してくれたのに……。
せめて一緒の大学へ通えればこんなに悩まなかった。
今までよりはきっと親密さはなくなるけれどそれでも行き帰りとか同じサークルに所属したりとか、なるべく一緒に居られるように工夫できたのに。
でも、それはどうあがいても無理で、私達は同じ大学へは行けなかった。
それどころかあなたの大学の近くの大学も、全部駄目だった。
あなたの進む道と私の歩く道はもう重なることが無いのだ。
だから、じゃぁ、どうしたら一緒に居られるのだろう。
考えて考えて一緒に暮らすことを思いついたのに。
「振られちゃった」
これからあなたと出会ってあなたの傍で笑う女の子達に気が遠くなるほど嫉妬してしまう。まだ彼女達は出会ってすらいないというのに、自分の考えの滑稽さに涙が止まらない。
どうしたらいいんだろう。
どうしたらあなたと一緒に笑うことが出来るのだろう。
涙を拭って考える。
泣いてたって状況は変わらないのだ。
だから私は考えて考えて考え続ける。
今夜も眠れない。