それはいつかくる夢の終わり 1
続『明晰夢を見ている』
志帆子は私達の大学時代からの友人だ。なので付き合いはかれこれ10年近くになる。
もともとは私の大学の友人で気がついたら私達二人の共通の友人になっていた。
そして私よりも彼女と気が合うのか、いつの間にか彼女と志帆子は親友同士と呼んでも差し支えないほどに仲良くなっていた。
私の気持ちは相変わらず彼女にだけ向っているから、志帆子に対する気持ちは共通の友人とはいえ少し複雑だ。時々、自分でもハッとするほど嫉妬している事がある。
彼女の気持ちは判らないけれど、志帆子の方向性は間違いなく異性の方へ向っているからまったく心配する事はないのだと判りすぎるくらいわかっているのに……。
志帆子が私達の元を訪れるのは大体3通りのパターンで例外がない。
一つは「ちょっとちょっと、いい人見つけちゃったわよ。いひひ」で志帆子の琴線を擽る男性が周囲に登場した時だ。
志帆子は一通りその男性がいかに魅力的で素晴らしいかをとうとうと語り、人生の喜びをはじめて発見した人のように浮き浮きとしている。
もう一つは「うふふ、実はね」と、その世界中で最も素晴らしい――志帆子にとっては――とおぼしき男性と両思いになった時。
この時の志帆子の言動は殆ど脈絡が無い。ただ幸せいっぱいの表情と動作で私達を圧倒するばかりだ。
「今日の志帆ちゃん、さらにパワフルだったね」
それは彼女も私もたじたじになってしまうほどの凄まじい幸せパワー、全開。
そして最後の一つ。「一体どういうことなのよ、こんなイイオンナを振るなんて。どうかしてるわよ、キイィ――ッ!!」という場合。
問題は大体においてこの時だ。
酔っ払ってベロンベロンになった志帆子は彼女に抱きついてはオイオイ泣き、懐き、甘え、絡むのだ。
私は「志帆子は可哀想なんだから、志帆子は可哀想なんだから……」と呪文のように繰り返し繰り返し唱えて、目をつぶって耳を塞いですべてが嵐のように過ぎるのをただただ待つばかり。じゃないと志帆子をつまみ出して「もう二度と来るな」と口走ってしまいそうだから。
そして、今、現在がそういう状態だった。
そうべたべたとくっつかなくても話せるはずだと口走りそうになるのをぐっと堪えて。
だいたいにおいて志帆子は飽きっぽすぎるし、惚れっぽすぎる。今まで何度このシュチエーションを堪えてきた事か。
私が彼女と志帆子を複雑な気持ちで眺めていると私の視線に気付いたのか志帆子がふいに振り返った。そして私にやりとした顔を見せて更に彼女にぎゅうぅっと抱きついた。
――志帆子……!!
私は志帆子の意図をつかめなくて混乱した。
第一にしてどうして失恋でどん底にいるはずの志帆子が私に対して余裕の顔を見せるのか。まるで見せつけるかのように抱きついて。
いや、志帆子は失恋して慰めてもらいに来ているのだ。だからきっと私の考えすぎだろう。そんな志帆子に嫉妬するなんて本当にどうかしてる。
私は少し頭を冷やそうと立ち上がった。