ホワイトデー 前編
平凡を絵に書いたような自分の一つだけ人と違うところは、多分恋をしているところだろう。
恋ぐらい誰でもするけれど、その恋は道ならぬ恋。そう言うことだ。
今日は3月14日。カレンダー上では普通の日だが、世間では「ホワイトデー」と言う事で定着している。俗に言う恋人達の日である。
「バレンタインデー」のお返しをされる日なのだ。
もちろん「バレンタインデー」で告白をしてOKを貰ったらすぐに付き合い始めるけれど、たとえOKを貰わなかったとしても「バレンタインデー」は自分の存在を相手にアピールし、「ホワイトデー」で相手の気持ちを量るのだ。相手にとって興味をもたれる存在になれば付き合わないまでもそれとなくお返しが貰えたりする。
だからとっても大事な日だ。女の子達にも、恋人達にとっても。
放課後、がっかりして元気のない親友に、私は決意する。
どんな返事でもこの子が何かしらの手ごたえを得ていたらやめようと思っていた。
ずっとずっと何日も考えて出した答え。
自分の気持ちを告げることはないけれど、気持ちを込めたものを贈るのは許容範囲だろうから。
「元気だしなよ、はい」
私が可愛くラッピングされた小さな箱を出すとがっかりした顔がびっくりした顔になる。大きな目がこぼれそうだ。
「ええっ、どうして??」
「ほら、バレンタインについでにくれたじゃん、私に」
そのお返し、と手渡す。
「あっ……」
腑に落ちた顔が微笑み、そして瞬時に泣き顔に変わる。
「ええっ! 何で泣く??」
私は何か悪いことでもしたかとドキドキした。だってただのお返しだ。好きだと告げた訳ではない。
「だって、嬉しい。……少しでも私のこと考えてくれたんだと思うと、嬉しくて」
ホワイトデーに意中の男子から何のお返しももらえなかったことがかなりショックだったのだろう。涙に濡れて色が濃く見える睫毛がおののくように震えている。
「馬鹿だな、泣くことないよ。世の中探せばもっといい奴いっぱいいるんだから。ほら、元気出して」
そっと指で頬の涙を拭う。
この指の震えが伝わって、この子に私の本当の気持ちを覚られないように、細心の注意を払って。
触れた頬と涙は温かく、私の全身の血が一気に沸騰するかのようだった。
こんなにも気持ちは相手に急速に流れていってしまう。親友に抱いていい気持ちではない。判っているけど自分では止められないのだ。
苦しいほどのこの気持ちを……。