一緒に暮らそう 後編
一目で泣き腫らした目だと判った。
だから思わず訊ねてしまったのだ。
すると彼女はなんでもないと一度首を振って、それからちょっとくしゃりと顔を歪めて、囁くような声音で言った。
「一緒じゃないと家を出るの駄目だって……」
彼女の大学は自宅からだと2時間はかかる。私の行く大学より更に30分は遠いのだ。
だからお互い大学から15分ぐらいの距離に部屋を借りたいと言っていたのだ。
「そっか……」
「――どうしても駄目??」
泣きはらしたような赤い目を潤ませてすがるように見つめてくる彼女に、どうして私が抗うことが出来るのか。
全ての音が消え、自分の激しい脈動だけが嵐のように身体を支配し、いつの間にかコクコクと何度も頷いていた。
これはもう、惚れた方が負けだとしか言いようがない。
果たして一緒に暮らして私はどこまで我慢できるんだろうか。
今夜は、眠れそうもない。
一度断られたのにちょっとしつこいかと不安になりつつも、もう一度頼むと、私の大好きな優しい顔をほんのりと照れたように赤らめてあなたは頷いてくれた。
それだけで私の心は天にも上ってしまう。
これから一緒に部屋を捜して引越しして新しい生活のために一緒に買い物をして、今まで以上にもっと特別な存在になれるような気がして、心が躍ってしまう。
一緒に暮らすことに不安がないわけではない。
大親友でお互いのことを良く知っていたとしても何日も何週間も何ヶ月も何年も一緒に暮らすのだから、お互いの嫌な部分とか今まで見えなかった部分が見えてきてしまうかもしれない。
その結果、この恋を失うかも知れない。
でも、でも、それはそれでいいと思う。
このままこの恋を胸にくすぶったまま離れてしまうより、恋を失うことになっても、親友は残るから。
あなたへの堪えきれない熱を抱えてあなたと暮らす。
それは喜びと、不安を同時にもたらす。
そうしていつかこの恋に終わりが来て、穏やかな、ただ穏やかな優しい気持ちであなたに向き合える日が来ることを……。
その日が来て欲しいような、永遠に来て欲しくないような、二つの願いの間で私の心は揺らめく。
それでも、一緒に暮らそう。
あなたが私を許し続けてくれる限り。