それはいつかくる夢の終わり 2
志帆ちゃんは私達二人の数少ない共通の友達。あなたの大学の友達だったのだけれど、どうしても志帆ちゃんがあなたと親密になるのに耐えられなくて、私の方から積極的に志帆ちゃんと仲良くなろうと努力した結果、今ではどちらかと言うとあなたより私の方が志帆ちゃんと仲が良くて親友と言ってもいいくらいになっている、と思う。
私のどうしようもないエゴだけれど、普通の友達ならいくらでも許せるけど、あなたの親友は私一人が良いから。この先もずっとそうであって欲しいから。だからあなたと志帆ちゃんの間に割って入って二人が親密にならないように意図した。私のこの気持ちは一生届くことは無いけど、親友というポジションだけはどうしてもどうしても死守したかったから。
失恋した志帆ちゃんはいつもの志帆ちゃんとは違う。
とても気の毒で放ってはおけない。だけど、ちょっと志帆ちゃんは気が多すぎるのじゃないかと思う。だってこの10年で20回は下らない失恋回数なのだから。
ずっとずっとあなただけを好きな私にはとても考えられないその失恋回数。
どうして志帆ちゃんは明るくて可愛くて気さくなのに失恋してしまうのかしら。本当に不思議。
そんな志帆ちゃんを可哀想だと判っているけど、あなたと一緒にいる時に志帆ちゃんの愚痴や文句を聞き続けているのはちょっと辛い。あなたを仲間外れにしている気分になってしまうから。
そしていつになくスキンシップが激しい志帆ちゃんに辟易してしまう。これがあなただったら良かったのにと。そんな風に別の事を考えて、まるで私が話半分で聞いている事を知っているかのように志帆ちゃんの失恋はとても激しく相手を攻撃していて、それを聞いているだけでいつも私はへとへとに疲れてしまう。
ふと、視界の隅で静かに立ち上がるあなたをとらえる。
「どうしたの?」
「あ、うん。ちょっと買い物にでも行って来ようかと思って」
私が思わず腰を浮かしかけて訪ねると、あなたはばつが悪そうな表情であいまいに笑うと利き手で頭をかいた。
「買い物って今から??」
そういう予定を聞いていなかったからつい詰問口調で聞いてしまった。
「あー、あれ、志帆子の好きな店。今時間だと焼きあがってるかなぁと思って……」
照れくさそうに小声でしゃべるあなたに私の胸がきゅうと苦しくなる。
あなたは優しくて。私にも優しいけれど志帆ちゃんにも優しくて、そして誰にでも優しい。
あなたを独り占めにしたいと思うのは空恐ろしいほどのエゴなのだと。いつもその現実を突きつけられる。。
こんなにべろんべろんに酔っ払っている志帆ちゃんを連れてどこかに行けるわけもなく。だからあなたは志帆ちゃんの大好きなケーキ屋さんでケーキと焼きたてのパンを買って来るつもりなのだと、すぐに判った。美味しいものを食べると不思議と人は幸福を感じるものだから。少しは志帆ちゃんの悲しみが癒されるかも知れない。
そのあなたの優しさに胸が熱くなって、その優しさが私以外の人間に向けられているというだけで息苦しくなる。
でも、そう。そんな風に優しいあなたが私は好きなのだから、それは仕方がない事。
「じゃぁ、私の分も頼んでいい?? あの店の出来たてアップルパイ、すっごく美味しいのよね」
私のお願いにあなたは柔らかな笑みを浮かべながらこくりと頷き、リビングから出て行こうとした。私は思わず志帆ちゃんがいる事も忘れていつものようにあなたの姿を目で追い続けた。いつだって私の目はあなただけに吸い寄せられてしまう。
「あー、ばかばかしいっ!」
急に耳元で大きな声を出されて私はびっくりして飛び上がった。
リビングの出入り口にいたあなたの足も止まる。
隣を見るとベロンベロンに酔っ払って私に絡み付いてた志帆ちゃんがいつの間にかふらふらと立ち上がっていた。