ホワイトデー 後編
嬉しくて嬉しくて、思わず飛び込んだ胸はとても温かだった。
元気出してと笑顔で言われて、こらえきれない涙がこぼれる。
そんなに優しい顔で私の大好きな優しい目で言われたら、泣くしかない。
ずっとずっと心の奥底に閉じ込めていた温かで柔らかな気持ちが涙とともに溢れそうになるのを、堪える。
だって、私達は親友同士だから。
これは私だけの、想いだから……。
永遠に告げることの無い、想い。
バレンタインのチョコレートは他の誰にも渡してはいない。
あなたにだけ。
でも、それは許されないから……、許されないことだから、本命のついでに作ったからと、あなたに渡した手作りのチョコレート。
私の愛情がぎゅうぎゅうに詰まった、それ。
作りながら何度あなたの名前をつぶやき愛を告げたか知れない。
でも義理という名目で渡したチョコレートに、まさかお返しが来るなんて思っても見なかった。
嬉しくて、嬉しくて、堪えきれずに涙を流すと、あなたは暖かな白い指先で私の涙を拭ってくれた。
その目はいつものようにたまらなく優しくて、私の大好きな眼差しだった。
こんなに優しい眼差しの人を見た事がない。
眼差しだけじゃなくて、勝気な眉も高い鼻も薄い唇も長い手足もあなたを構成するすべてが大好き。
好きで好きでたまらない。
ずっとずっと、出会った頃からずっと好きだった。
「これ、開けていい??」
「ここで??」
涙を拭ってバレンタインのお返しにもらったプレゼントを指差すと、あなたはとても不思議そうな顔をした。
「嬉しいから、今開けたいの。家まで待てないの。いい??」
あなたが頷く前からリボンを解く。
「……ホワイトチョコレート……」
夢かと思った。実際地面が揺れているように感じたくらいびっくりした。
「ありがとう!」
嬉しくて、嬉しくてそのまま思わず抱きついてしまった。
判ってる。
あなたはこういうことには無頓着でこれが何を意味するのかたぶん知らない。
だけど――。
それでも嬉しい。
あなたからホワイトチョコレートをもらえた事が泣けてしまうほど嬉しかった。
この気持ちを思い出に、きっとこの先一人で生きて行ける。
例えあなたと離れなければいけない日が来ようとも。
「ありがとう、すごく嬉しい」
抱きついた腕を解いて少しだけ背の高いあなたを見上げると、あなたは私の大好きな顔で笑ってくれた。
もう、これ以上、何も望まない。
望めない。
大切な大切な相手と一緒に、今日は素敵なホワイトデー。